プロ野球選手がチームを渡り歩くのは悪なのか。移籍に対する反応にも表れる日米の「個と組織」の違い (2ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

「個人あっての組織」vs「組織あっての個人」

 奥野「日本って、組織に対する忠誠心が美徳とされる傾向が強いよね。何というか、確たる組織が存在していて、それに帰属する個々人は組織に対して、絶対的な忠誠心を求められるし、結果がどうであれ、組織に忠誠を尽くした人が称えられるケースが少なくない。つまり日本では、組織あっての個人という考えを持った人が、結構多いんだと思う。

 でも海外、とりわけアメリカなどはその傾向が強いのだけれども、組織あっての個人という考え方をする人は、おそらくあまりいない。

 もちろん、軍人や政府関係者といった立場の人たちは、自分が属している軍、あるいは政府機関、それを包括する国家そのものに対して、強い忠誠心を持っているけれども、大リーグのエンゼルスに所属している大谷選手をはじめとするスポーツ選手や、ビジネスの世界に身を置いている人たちは、『組織があるから今の自分がいるんだ』などとは、おそらく考えないだろうね。

 その逆で、『自分が頑張っているから、組織が存続していられるんだ』くらいに考えているんだと思う。

 つまりアメリカでは、『組織あっての個人』ではなく、『個人あっての組織』という考え方が圧倒的多数であり、こうした組織と個人の関係性に対する考え方の違いが、スポーツ選手の移籍に絡んでも、さまざまな意見や憶測を呼んでいるのではないかと思うんだ」

鈴木「でも、大谷選手がこのままエンゼルスにいると、いつまで経ってもプレーオフに出場できないという声は、メディアからも出ていたみたいですね」
由紀「プレーオフに出場して、そこで好成績を納めたら、年俸や契約金がもっと大きく跳ね上がる可能性だってありますよね」
鈴木「3000万ドル......以上ってこと?」

奥野「そういう声が出るのは、まさにアメリカならでは、という感じがするよね。

 もちろん、大リーグの選手でも、ひとつのチームにずっと所属し続けた人もいる。たとえばニューヨーク・ヤンキースの第11代主将を務めたデレク・ジーター選手は、1995年のデビューから2014年の引退まで、実に20年間にもわたって、ニューヨーク・ヤンキースの選手であり続けたんだ。その人気は非常に高いものだったし、彼の背番号『2』は、ニューヨーク・ヤンキースの永久欠番だから、それだけ敬意を払われているのは事実だよ」

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