プロ野球選手がチームを渡り歩くのは悪なのか。移籍に対する反応にも表れる日米の「個と組織」の違い

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

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 前回は野球部の顧問・奥野一成先生から、個人にせよ企業にせよ、これからは海外を目指すことがどれだけ大切かという話を聞いた3年生の野球部女子マネージャー・佐々木由紀と新入部員の鈴木一郎。由紀は「海外の大学への留学」という選択肢を考えるようになった。

そもそも日常の会話からして、国内と海外を分ける垣根はどんどん低くなっているように見える。野球小僧・鈴木も、野球部の顧問で、家庭科では投資について教えている奥野先生も、趣味はメジャーリーグ観戦。テレビを見ている時間は日本の野球よりアメリカの野球のほうが長かったりする。

 そのメジャーリーグもワールドシリーズが終わればストーブリーグへ。話題の中心は選手の移籍や契約の話となる。練習を終えた由紀と鈴木は、奥野先生を囲んで、オフシーズンの野球話に花を咲かせる。

鈴木「結局、大谷翔平は今シーズン、移籍はしなかったですね」
奥野「あれだけのスターだから、きっとロサンゼルス・エンゼルスは手放したくなかったんだろうね」
鈴木「で、来年の年俸は3000万ドルだって......。でも、もうちょっと強いチームで投げていたら、絶対あと何勝かできてたんじゃないかな」
由紀「アメリカでもそういう意見はあったそうですね。『大谷は移籍してステップアップすべきだ』って」
奥野「移籍というものに、日本人とアメリカ人では若干、考え方が違うのかもしれないね」

 野球においてもサッカーにおいても、日本よりアメリカ、ヨーロッパのほうが、選手の移籍が活発に行なわれていることは、ファンなら肌感覚で知っているだろう。1年でチームの顔ぶれがガラッと変わることもあるし、いろいろなチームを渡り歩くスター選手も多いからだ。

 統計的に見ても、「チーム全体の出場機会に占める既存戦力の割合は、アメリカより日本のほうが高い」(参考:『統計学で解明!野球のギモン』渡邉成行/彩図社)という。

由紀「それって、アメリカやヨーロッパの人のほうが、移籍をポジティブに見ているということですか?」

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