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金メダルを目指しながら予選敗退 パリオリンピックの本多灯に起きたレース直前の異変 (3ページ目)

  • 栗原正夫●文 text by Kurihara Masao

【「どこかで楽しむことを忘れてしまった」】

 レース直後には、堀之内コーチのもとに、多くのメディアから本多の状況についての問い合わせ連絡が殺到していたという。

「みなさん、『実は何日か前に発熱していたのでは?』『直前にケガをしていたのではないか?』と、敗退の理由を探していたのだと思います。ただ、何かあったわけではないですから。私も『レース直前に、何かに飲み込まれてしまったのではないか』と答えることしかできませんでした」(堀之内コーチ)

 本多はパリ五輪後、約2カ月間の休暇を取り、9月末から練習に復帰している。ただ、あくまで体を動かすことをメインにし、特に何か目標などを定めているわけではないという。それでも、再びプールに戻った本多の表情は明るさを取り戻し、あらためてパリ五輪をこう振り返った。

「僕はやっぱり、いい意味でも悪い意味でも期待を裏切る男ですよね。東京五輪のときは、出ただけですごいっていうなかで銀メダルを取って、今回はメダルを期待されながら予選敗退ですから(笑)。

 やっぱり選手って、大会が大きくなればなるほど、勝手に背負うものが大きくなってしまうんですかね。僕もいま思えば『失敗したら失敗したでいいや』くらいの気持ちで臨めばよかったと思っているのですが、レース前はそういう思いになれなかった。

 五輪に魔物がいたか? そう言う選手もいますが、そんな表現をするのは日本人だけですよね? 僕自身はそんなものは感じなかったですし、五輪って本来は(出る人も観る人も)楽しめる場所であるべきなのに、僕はどこかでそうした思いを忘れてしまっていました。

 スポーツって、みんな最初は楽しくて始めたわけじゃないですか。そういう意味では、どんな舞台でも楽しんでガムシャラにやった人が強いんだと思うし、きっとパリ五輪の競泳で4冠を達成したマルシャンなんかも、そんな感じだったんじゃないかと、僕は思っています」
(つづく)

【profile】
本多灯(ほんだともる)
2001年12月31日、神奈川県生まれ。イトマン東進所属。幼稚園時代に兄の影響を受け、水泳を始める。2020年に日本大学に入学。2020年日本選手権の200mバタフライで初優勝を果たす。2021年東京オリンピックでは200mバタフライで銀メダルを獲得。2024世界水泳選手権ドーハでは200mバタフライで日本人初の金メダルを獲得した。2024年パリオリンピック200mバタフライに出場。

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