金メダルを目指しながら予選敗退 パリオリンピックの本多灯に起きたレース直前の異変 (2ページ目)
【ふたりの"怪物"】
環境に左右されやすい。本多は自分自身の性格について、そう話す。
「他の選手のいい泳ぎを見ると、『すごいな!』と刺激を受けるよりも、プレッシャーに感じてしまうというか......。気持ち的に落ちていれば、なおさら。そういう状態で負の連鎖にハマってしまったのがパリ五輪だったかもしれません」
堀之内コーチが続ける。
「200メートルバタフライの前日には(同種目でも最終的に金メダルを手にする)レオン・マルシャンが最初の種目の400メートル個人メドレーで、(2位の松下知之に約6秒の差をつけるなど)圧巻の泳ぎで、ひとつ目の金メダルを獲得していました。また灯は、銀メダルを手にするハンガリーのクリストフ・ミラークが戻ってきていることもわかっていたでしょう。
大会前、灯は1分51秒台を出せば、金メダルの可能性があると感じていたはずです。でも、ふたりの"怪物"が揃ったことで、結果的に51秒台を出しても銅メダルにギリギリ届くかどうかという状況になってしまった。
そんな状況が東京五輪で銀メダル、2月の世界選手権で金メダルを取り、パリで金メダルしかないと思っていた灯の心に影響を与えてしまったとしても不思議ではない。本来の灯は、強い選手と泳ぐことをエネルギーに変えていた部分がありました。ただ、金メダル以外はあり得ないという状況に自らを追い込んでしまったことで、自分の泳ぎを見失ってしまったのかもしれません」
それは、世界のトップを狙える選手だけが感じることのできるプレッシャーとも言えるが、本多にとっては自身の過去の好結果が急に重荷となってしまったのかもしれない。
「ずっと練習をともにしてきた私たちスタッフや仲間にすれば、灯がどういう結果に終わっても受け入れるつもりでしたし、彼がやってきたことを否定するつもりも、金メダルが取れなかったからと何か言うつもりもなかったんです。
ただ、期待していた世間の人からすると、残念だという気持ちを抱く方もいると思います。だから灯にすれば、結果を出せなかった場合に世間からどう思われるのか、と考えてしまうことは仕方のないこともしれませんし、そういう思いが泳ぎに影響してしまったのだと思います。
悔しさがある? 正直、そういう思いまでいきませんでした。ただ、私は今回、代表のコーチングスタッフに入ってはいなかったので、灯の練習を見ていたのは事前合宿のアミアンまででした。もし会場で招集所に送り出すところまで傍にいれたなら、何か気づけたかもしれない、そんな思いがないわけではないです。もちろんそんなことは『たられば』で、傍にいたからといって何かができたかは微妙ですけどね」(堀之内コーチ)
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