号泣からの再起。萩野公介が
東京五輪に向けて必要だった苦悩の8日間

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Fujita Takao

 世界水泳最終日に行なわれた男子400m個人メドレーで、優勝した同い年のチェイス・カリシュ(アメリカ)に6秒75の大差をつけられて4分12秒65の6位に終わった萩野公介(ブリヂストン)。レース後の表情は硬いままだった。

強い萩野公介を取り戻すために、東京五輪に向けてリスタートを切る強い萩野公介を取り戻すために、東京五輪に向けてリスタートを切る「動き自体は悪くなかったと思うし、予選で悪かったところも修正して泳ぎを作り上げたつもりで決勝は泳いだんですが......。いけるところまでいこうという気持ちで泳いでいたので、これが今の実力だなと思います」

 準決勝は7位通過で、決勝は中央のシードレーンを泳ぐ選手たちの姿が見えない1レーンだった。

「周りが見えない位置だったし、周りを見てもしょうがないというか。アップの時は泳ぎがすごくよかったので、そのままの泳ぎでいこうと思っていたし、背泳ぎもそのつもりでいきました。勝負をするには必要なことかもしれないですが、他の人がどうとか、順位がどうということは、今の僕には必要ではなかったので。勝負を捨てていたということではなく、今の僕が他人と勝負するために一番必要なのは、自分の力を出し切ることだと思った。そのためにはどうしたらいいか、ということを考えて泳いだレースだったと思います」と萩野は振り返る。

 しかし、泳ぎ自体にいつもの力強さやキレがないのは明らかだった。前半のバタフライと背泳ぎで先行するのが彼の必勝パターンだが、自己ベストで金メダルを獲得した昨年のリオデジャネイロ五輪では55秒57での通過だったバタフライは、50mを折り返してから伸びず56秒19。リオで1分57秒73だった200m通過も2分00秒47で4位と遅れ、平泳ぎが強いカリシュに先行された。この時点で金メダル獲得が絶望的なだけでなく、メダルも危うい状態になった。

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