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【世界水泳】寺川綾が銅メダル。笑顔の裏にあった重圧と不安 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 藤田孝夫●写真 photo by Fujita Takao

 そんな寺川の銅メダル獲得を平井コーチはこう説明する。

「準決勝はへばらなかったというが、最後の泳ぎに不安があったので最初はちょっと抑えて後半勝負に切り換えたんです。でも寺川の場合は今まで、前半から行ったり、後半に勝負など、いろいろなパターンのレースをやってきた。いろんなことをやってきたのが今回生きたと思う。万全の自信を持って臨めなかったが、ロンドン五輪でメダルを狙って獲ったという経験も生きていると思う」

 そういった経験の積み重ねとともに、世界のトップ選手の仲間入りをしたという自覚。さらには日本チームの主力であるという責任感の強さ、メダリストの意地などが彼女を支えているはずだ。

「去年のロンドン五輪でメダルを獲っていて今回獲れないというのは自分でも納得できないし、チームのためにも良くないことだと思ってやってきたので。その点では去年と違う思いがあったし、そういうものが今回は大きかったかなと思います。でも今回は、メダルを狙って獲ることが本当に難しいことだと実感させられました」

 寺川はこう言って柔らかな笑みを浮かべた。かつては周囲の期待を重荷に感じることもあり、自分から「メダルを狙います」という言葉を口にすることはできなかった。だが五輪のメダリストになってからはこれまで以上に周囲から期待され、「メダルを目指して頑張って下さい」と言われる。そんな諸々のことを受け入れるだけの度量を持つのがメダリストの務めでもあるということを、五輪のメダルを獲得して初めて納得できたのかもしれない。そんな素直な気持ちこそが、彼女を今なお進化させ、強くさせている大きな要因のひとつだろう。

 メダルを獲って安堵したとはいえ、寺川の心の中には、金メダルではなかった悔しさや狙っていた58秒台中盤に入れなかったもどかしさがあるはずだ。それを彼女が自分の中でどう消化し、次への一歩をどう踏み出そうとするのか。彼女に期待する多くの人が、その場がまたプールであることを願っている。

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