東日本実業団駅伝に挑む注目の新チーム「MABP」、主将の木付琳は「ひとりでも欠けたらチームが終わる危機感でやってきた」 (3ページ目)
【ひさしぶりの駅伝なので楽しみ】
単独チームでの駅伝出場は大学4年時の箱根駅伝以来となる photo by Murakami Shogo
印象的だったのは、木付本人よりも家族や周囲の人たちが喜んでいたことだ。木付もまた声援が力になったことを実感し、レース後、応援してくれたファンの前でお礼を述べた。そういう背中や行動を見せることで、チーム内の選手の意識も変わっていき、愛されるチームになっていく。
いい流れで東日本実業団駅伝の当日を迎えられそうだが、木付は「油断をしてはいけない」と気持ちを引き締める。國學院大4年時、箱根駅伝直前の12月にアキレス腱に痛みが出て、迷いがあるなか、結局、レース前日に出走を決めた。結果は7区20位と思うような走りができなかった。
「あの時は僕が走らないと12番目の選手が走ることになる状況だったので、監督と話をしてイチかバチかで出たんですけど、チームに迷惑をかけてしまって......。そういう経験があるので、レース当日を迎えるまでは気が抜けないですね」
MABPのエントリーは全10名だが、2名いる外国人選手のうち走れるのはひとり。また、今年6月に難病ジストニアの手術を受け、いまだ回復途上の神野を除いた日本人選手7名のなかから6名が走ることになる。
「補欠とかの余裕もないので、ケガや病気になったらヤバいっていう緊張感がみんなにあります。その意識はチームがスタートした時からありますが、最近はひとりでも欠けたらチームが終わってしまうという危機感と、自分がやるんだという自覚が強くなっています。東日本の当日に向けて、体調管理にはかなり気を使っています」
異様な緊張感は、きっとレース当日まで続くだろう。ただ、準備に抜かりはない。試走を2回行ない、コースの特徴は把握できている。
「基本はフラットなコースですが、途中に橋があって、そこは結構キツいと思いましたし、折り返しもあります。そういうコースなので、前後の差は目で確認できますし、順位を考えて走ることができるのは大きいかなと。声かけのスポットも多いので、チームと、チームを応援してくださるファンの皆さんの全員で戦えると思います」
元日のニューイヤー駅伝の出場権は上位12チームが獲得し、さらに第70回記念大会の特例措置として、タイム条件をクリアすれば、さらにもう1チームにチャンスが与えられる。勝負のポイントはどこにあると考えているのだろうか。
「1区、2区のセットが重要です。ここで14番以降に落ちてしまうと、出場圏番内に戻すのが大変になる。でも、ひと桁の順位で推移していけば、そのままレースが流れていくでしょう。だから重要になるのが1区ですが、チームには1区を得意とする選手がいるので、いい流れをつくってくれると思います。新卒組の4人は駅伝初心者みたいなものですが、それぞれ力を発揮してもらうしかないですね。最近は、クラブハウスでの食事中に、過去の東日本実業団駅伝のレース映像を流しているので、走るイメージはできていると思います」
木付は九電工時代、実業団混成チームの一員として九州実業団駅伝の1区を走ったことはあるが、単独チームでの駅伝出場は大学4年時の箱根駅伝以来になる。
「ひさしぶりの駅伝なので楽しみですね。もちろん、区間賞を獲りたいですが、駅伝では大外しをしないのが大事なので、そこを踏まえて全力で走りたいと思っています。(チームの)YouTube(チャンネル)などを見て、自分たちの活動を応援してくれる方がいるので、そういった方々に結果で返したい。ニューイヤー、決めたいですね!」
著者プロフィール
佐藤俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)、「箱根5区」(徳間書店)など著書多数。近著に「箱根2区」(徳間書店)。
3 / 3

