國學院大出雲駅伝優勝への鍵となった野中恒亨 2度の当日変更の悔しさを4区区間賞で晴らし全日本大学駅伝&箱根駅伝へ (2ページ目)

  • 杉園昌之●取材・文 text by Sugizono Masayuki

【勢いではなく地力を証明】

 春から夏にかけてのトラックシーズンは、自らの実力を証明するために目に見える結果にこだわった。4月に5000mで13分49秒18、5月には10000mで28分17秒98と続けざまに自己ベストを更新。9月には出雲駅伝のメンバーを選考するトライアルの単独走で、駅伝経験豊富な3年生の高山豪起らよりもタイムで上回り、前田監督の信頼を勝ち取った。

 そして、迎えた本番。指揮官の期待にしっかり応えてみせた。

 3位で襷を受け取ると、序盤から強気に攻めていく。前を走る駒澤大の伊藤蒼唯(3年)、青山学院大の宇田川瞬矢(3年)との差をじりじりと縮め、必死に背中を追い続けた。終盤までペースを落とさず、歯を食いしばる。スタート時点ではトップと20秒も離されていたが、9秒差に迫り、2位・青山学院大とわずか4秒差で襷を渡した。駅伝デビューでいきなりの区間賞。ただ、本人は物足りなさを口にする。

「前に追いつかないといけなかった。最後の切れ、もっと突っ込んで耐えるなど、課題も見えました。監督には、最低でも(5区の)上原琉翔さん(3年)にいい位置で渡すように、と言われていたので、最低限の仕事。全日本大学駅伝、箱根駅伝でも自分のところで『攻めたい』と監督には言われているので、(全日本、箱根)ともに区間賞を取りにいきたいです」

 自己評価は厳しいが、3区の辻原輝(2年)には感謝していた。エース格がそろう主要区間で粘り、青山学院大、駒澤大の背中が見える位置で襷をつないでくれたという。表彰式の前に顔を合わせると、互いにふっと口元を緩めた。野中が「僕のなかでは辻原がMVP」と言えば、辻原は「野中のその言葉に救われた」とほっとした表情を見せる。逆転優勝の流れを引き寄せたのは、指揮官からキーマンに名指しされた笑顔の2年生コンビだった。

 5区でトップに躍り出た3年生の上原、6区で勝負を決めた平林の走力は言わずもがな。そろって圧巻の区間賞を獲得し、強さを証明していた。勝つべくして勝った展開に持ち込んだ前田監督は確かな手応えを得て、早くも次に目を向ける。

「全日本大学駅伝は一番を取れるんじゃないかと思っています。そこで勝って、箱根駅伝に向かいたい」

 初制覇を狙う11月3日の伊勢路に照準を合わせ、準備している他の主力たちもいる。今年7月、10000mで28分25秒72の自己ベストを記録した高山をはじめ、28分30秒39のタイムを持つ後村光星(2年)、28分40秒16の嘉数純平(3年)など、いずれも駅伝経験を持つ実力者が出走の機会をうかがう。メンバー争いはし烈を極めており、前田監督は目を細めていた。

「(出雲駅伝の出走組以外も)相当高いレベルにあります。10枚はすぐにそろう。全日本、箱根と区間距離が伸びていくので、うちにとっては優位かなと」

 シーズン当初から掲げている目標は初となる箱根駅伝の総合優勝だったが、勝ちたい欲は深まるばかり。主力メンバーに目立った故障者もなく、盤石の態勢が整いつつある。

 勢いだけではない。今の國學院大は、3冠へ突き進んでいく地力も持っている。

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