女子走高跳で注目の髙橋渚が自己ベストを次々更新中 1m90台とパリ五輪への挑戦 (3ページ目)

  • 折山淑美⚫︎取材・文 text by Oriyama Toshimi

【1m90の先に】

 ただ、静岡国際での1m88の成功には驚いた、と直幸コーチは言う。

「動きのキレが出すぎて助走のスピードもあり、きちんと踏み切ってないような感じが見受けられたからです。それでもクリアしたし、なぜか触っても、バーは落ちないんですよね。最後まで力を抜かずにクリアランス(バーを越える時の空中姿勢)に持っていくセンスがあるというか。普通はちょっと(バーに)触るだけでも落ちるけど、しっかり(体が)抜けてくるのは、普段からクリアランスを意識できているのだと思います。

 最近はクリアする時に腕を下に持っていくことを、妻とけっこう意識して取り組んでいます。腕が上がりっ放しだと重心は落ちないけど、腕をうまく入れ込めると頭のほうからうまく落ちてスムーズにクリアできる。その成果もあったと思います」

 髙橋は、うまくいったあとでもいろいろチャレンジできる性格で、今回も奈緒美コーチのアドバイスをそのまま自分の動きのなかに落とし込んで修正したという。自分で考えて体現する能力が高いということだろう。

「彼女は決して"一発屋"のタイプではありません。成長の過程は一歩ずつになりますが、1回跳んでしまえば、そのレベルで安定できる。そういう選手だからこそ、強さも備えていると思います。

 昨年は1m88をなかなか跳べませんでしたが、それも経験という側面もあった。今年は海外に足を運び、結果を残すことで自信をつけたのはかなり大きいと思います。高校時代は本当に自信がないような選手だったけど、今ははっきりと物事を言えるようになった。その辺のメンタル的なところが大きいのかなと思います。基本的にはおとなしくて口数も少ないですが、スイッチが入ると勝負強い子なので、自信がつけば強いと思います」

 こう話す直幸コーチは、「踏切さえしっかり覚えれば、日本記録の1m96に迫るイメージを持っている」と期待を寄せる。

 静岡国際では、1m91に挑んでみせた髙橋。

「2月のニュージーランドで1m90に挑戦した時も自分の跳躍はできていました。高さが上がると自分の跳躍ができないことが多かったけど、それがなくなってきたのは大きいですね。今回の91も1回目はダメだったけど、2回目は手拍子をしてもらってまとめる跳躍はできたと思います。どうしても『跳ぶぞ』と思って構えてしまうから、試合で90に数多く挑戦して慣れていかなければと思います」

 髙橋は、パリ五輪出場も意識している。1国上位3名を対象にした世界ランキング(ポイント制)では34番手で、ターゲットナンバー(出場枠)の32までもう少し。出場する大会できっちり順位を確保すれば、ランキングを上げることができる。

「パリ五輪の選考までに今回を含めて3試合を考えています。当初は静岡で1m86を跳んで6月9日のアメリカの大会でも86、(6月下旬の)日本選手権は88と思っていたので、ここで88を跳べたのは大きいですね。アメリカも誰が出てくるかで変わるけど、80台後半を跳べば上位にいけると思うので頑張るだけです」

 日本女子ハイジャンパー、11年ぶりの1m90台成功へ。髙橋がそれを実現すれば、パリ五輪も近づいてくる。

プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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