「選手寿命を縮めるとしか思えない練習」月間1200キロを走った青学大・吉田祐也は箱根駅伝初出走で区間新をたたき出した

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日本スポーツプレス協会/アフロスポーツ

2024年パリ五輪のマラソン日本代表の座を狙う、箱根駅伝に出場した選手たちへのインタビュー。当時のエピソードやパリ五輪に向けての意気込み、"箱根"での経験が今の走り、人生にどう影響を与えているのかを聞いていく。

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パリ五輪を目指す、元・箱根駅伝の選手たち
~HAKONE to PARIS~
第12回・吉田祐也(青学大―GMO)前編

大学4年時、吉田祐也は箱根駅伝初出走で4区区間新記録を出した大学4年時、吉田祐也は箱根駅伝初出走で4区区間新記録を出したこの記事に関連する写真を見る  吉田祐也のマラソンデビューは、衝撃的だった。

 青学大卒業間近の別府大分毎日マラソンで並み居る実業団選手を置き去りにして総合3位、日本人トップの2時間8分30秒の記録をマークした。現役引退のラストレースだったはずが、図らずも現役続行を決める人生最大の転機となり、今も吉田は走り続けている。あれから3年、吉田の視線の先には、何が見えているのだろうか──。

 まず吉田の人生を大きく変えた青学大への進学。青学大に決めたのは、シンプルな理由からだった。

「青学大を含め3大学から声をかけていただきました。青学大に決めたあと、他の強豪校からも声がかかっているぞと言われて(苦笑)。その監督とは面識があったので、最初に聞いていたら悩んでいたかもしれないですね。最終的に青学大を選んだのは、僕がミーハーだったからです(笑)。田舎の高校でしたし、当時は箱根駅伝を最終目標にしていたんですが、青学大は高2の時に初優勝して輝いて見えました。どうせやるなら一番強いチームに入って刺激を受けて競技をやろうと思って青学大に決めました」

 吉田が入学した2016年当時、青学大は箱根駅伝2連覇を達成し、チームは箱根3連覇、大学駅伝3冠を目標に掲げていた。安藤悠哉主将をはじめ、一色恭志(現GMO)、田村和希(現住友電工)、下田裕太(現GMO)らがおり、大学トップレベルのチームだった。

「チームには意気軒昂として入ったんですけど、すぐに心が折れました。僕はインターハイも都大路も経験していないですし、レベル的には北関東レベルの選手だったんです。でも、部内は都大路やインターハイで優勝しているとか、強豪校でキャプテンをしていたとか、高校のトップクラスの選手が集結していました。レベルが高くて、入った当時はまったく歯が立たなかったんですが、強い選手と一緒に生活しているだけでもすごい刺激になりました」

【練習できているのに、なんでダメなんだろう】

 1年時、青学大は出雲、全日本を制して2冠達成。同期の鈴木塁人(現SGホールディングス)は出雲に出走し、1区5位と堂々とした走りで大学3大駅伝デビューを果たした。吉田は4年間で一度は箱根駅伝を走りたいと思っていたが、チームが次々と駅伝を制覇していくなかで気持ちに変化が生じてきた。

「塁人が出雲に出て活躍したり、チーム内で駅伝の選考をしていたり、山上りをやっているのを見ていると、2年目から3大駅伝のどれかには絡みたいという気持ちが自然と出てきました」

 2年時、同期の鈴木、竹石尚人を始め、1年生の神林勇太ら有力なルーキーが台頭し、吉田は駅伝を走るチャンスを得られなかった。吉田が駅伝の舞台を踏むのは、3年の全日本大学駅伝まで待つことになる。

「初めて駅伝に出るまで長かったですね。僕は、故障して長期離脱することはなかったんですが、逆に練習ができているのにレースで結果が出なくて......。可もなく不可もなくみたいな結果が多く、一発当てるみたいなレースができなかったんです。練習できているのに、なんでダメなんだろうってすごく考えました。ただ、他のチームのエースと比較するとなんかひと押し足りないというのも感じていて、そこは何が足りなのか、すごく悩みました」

 練習ができているのに結果が出ないことは往々にしてあることだ。しかし、同じ練習を積んでいる選手が結果を出していることもあるので、「なぜ?」という気持ちが大きくふくらんでいった。練習では他の選手と同じレベルで走れていても、いざ駅伝になると吉田の名前は外れた。

「もうひと押し足りないのが一体何なのか、わからないままでした。箱根もそうですが、僕はいつも11番目の選手だったので、監督の目には、駅伝に出すには不安要素があると思われていたんだと思います。実際、自分では認めたくなかったですけど、他の選手と自分を並べてみると、自分でもこの選手のほうが強いよなって思っていたので納得するしかなかったですね」

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