箱根駅伝が市民ランナーのシューズ選びに与えた影響。「厚底」があたりまえになった背景 (2ページ目)

  • 南井正弘●文 text by Minai Masahiro
  • photo by Kyodo News

 2019年の箱根駅伝でもナイキの快進撃は続く。95名がナイキのシューズを履き、シェアは4割を超えて2年連続の1位。そのうちの90名近い選手が「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」や、その後継モデルである「ズーム ヴェイパーフライ4% フライニット」を履き、シェアの大幅アップに貢献したのである。

 ナイキはその成功に満足することなく、次のステップへと進む。それが2019年春に発表された「ナイキ ズームエックスヴェイパーフライ ネクスト%」である。このシューズは、前作からのフルモデルチェンジであり、アッパー、ミッドソール、アウトソールのすべてが一新された。

 そして、このシューズはデザインだけでなく、機能面でも大きな変更が加えられた。それは「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」のパフォーマンス性能をフルに発揮するには前足部の着地が求められたのが、このモデルでは中足部の着地や踵からの着地をする選手にも好結果を記録したように、汎用性が前作から著しく向上した。その汎用性の高さは2020年の箱根駅伝でも証明され、8割を超えるランナーが「ナイキズームエックスヴェイパーフライ ネクスト%」を着用した。

 このニュースは大々的に報道され、市民ランナーの間でもこのシューズの激しい争奪戦が繰り広げられ、運よく手に入れたランナーの多くが次々に記録を更新すると、

「あのシューズを履くとPB(自己ベスト)を更新できる!」

「3万円近いプライスは決して安くないが、記録が大幅に伸びるなら投資する価値はある!」

と、一般ランナーの間でもより一層話題になり、その人気はさらに高まった。

 2023年の現在、ナイキ以外からもアシックスの「メタスピードシリーズ」やアディダスの「アディゼロ アディオス プロシリーズ」といった厚底レーシングシューズが展開されており、これらシューズも箱根駅伝において確固たるポジションを築くことに成功。それに影響されて両社の厚底レーシングシューズも市民ランナーの間でもポピュラーな存在となっている。

「サブ4の壁に何度となく跳ね返されたランナーが、初めて厚底レーシングシューズを履いて走った館山若潮マラソンで、3時間40分台でゴールした」

「30km以降急にペースダウンすることが続いていたランナーが、最後までペースをキープできた」

「フルマラソンを走った後、翌日にもほとんどダメージを感じなかった」

という話を一般のランナーから聞くことも珍しくない。

 2017年にナイキが初めて同種のプロダクトをリリースしてから6年を迎えようとしているが、今では厚底レーシングシューズはトップアスリートだけのものではなく、市民ランナー、それもサブ3.5やサブ4レベルのランナーにとってもあたりまえの存在になりつつある。

『人は何歳まで走れるのか? 不安なく一生RUNを
楽しむヒント』
1月26日発売 南井正弘・著

年を重ねても楽しく走り続けるには?
99歳現役ランナー、君原健二、金哲彦、高橋尚子、
茂木健一郎、フル2 時間30分の管理栄養士、
ランニングドクターなど、先駆者やプロに、
「加齢とRUNの気になる関係」を聞く。
スポーツシューズを追いかけて34年の著者が、
これまで試したシューズは1000 足以上。
その比類なき知識と情報量でシューズの選び方を語る。
レース愛好家、ファンランナー、これから走りたい
ビギナー、すべての中高年ランナーの背中を押す!

【発行】集英社
【定価】1540円(税込)
【体裁】四六判・160ページ

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る