「箱根駅伝1区は3番手ぐらいの選手が走る区間になってきた」。前区間記録保持者・佐藤悠基が語る、1区の重みの変化 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by アフロスポーツ

「これまで区間記録が出なかったのは、いろんな要因があると思います。1区のメンツとか、誰がリードするのか、その選手はリードしたいから引いているのか、前に出てしまったから引いているのか......。いいペースで、かつ集団で走ればタイムを狙えますし、吉居君のように力のある選手がポンと前に出て、そのまま乗って気持ちよく走ればあのようにタイムが出ます。ただ、あれだけ思いきっていくのは後半まで持つのかという不安があるし、20キロをそのペースで行くという経験がないはずので、かなり勇気がいることだったと思います」

 佐藤は、前回の吉居の快走や1区を走る選手の顔ぶれを見るにつけ、自分が走っていた頃とは1区の重みが変わってきたと感じている。

「まず、全体のレベルが上がってきて、1区から出遅れるとそれを取り返すのが難しくなっているので、どこの大学も最初から遅れたくないというのが本音だと思います。1回遅れてしまうと前半、無理して速く入って、後半それでバテてしまい、さらにペースを落として差が広がってしまう負のスパイラルに陥りやすいんです。でも、1区を上位でくれば2区以降の選手は、無駄に前を追いかけてハイペースで行く必要がなくなり、自分のペースで走れるのでいい流れができます。そういうこともあって、1区は重要度としては非常に高く、チームで3番手ぐらいの選手が走る区間になってきていますね」

 その1区を走る選手の特性とは、どういうものが必要なのだろうか。

「どんな展開になっても自分の力を出しきれるメンタルの強さと走力を持っている選手ですね。1区は駅伝の流れを作る大事な区間なので、失敗できないプレッシャーが大きく、気持ちが強くないと務まらない。また、1区は最後、どんな展開になってもペースアップするので、そこでキツくても遅れない、たとえ遅れたとしても最小限で抑えられる粘り強さを持っている選手、吉居君のように最初からハイペースで押しきれる選手が理想ですね」

 最初からハイペースで押しきるのは、まさに吉居スタイルだが、仮に彼がまた1区に起用された場合、果たして前回同様の走りを見せることができるのだろうか。

「力のある選手は1回パンと結果を出すのはできるんですが、毎回結果を出し続けることが難しい。それに前年に区間記録を出してしまうと、周囲の期待値が高まり、周りからもマークされやすくなります。無駄にプレッシャーをかけられるので、そことの戦いにもなりますね。そういうなかで吉居君が前回のようなパフォーマンスを発揮できれば、本物の実力かなと思います」

 吉居が前回大会で出した区間記録を、吉居自身がまた破るのか。それ以外だとどういうシーンで区間新が生まれてくるのだろうか。

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