「女子選手は指導者に依存させないと伸びない」は正しいのか? 石塚晴子が陸上界の「根拠なき通説」に斬り込む理由 (3ページ目)

  • 堤 美佳子●取材・文 text by Tsutsumi Mikako

 大学退学後にローソンに入社し、実業団という形で練習を続けてきた。実業団に入りたいと思ったのは、ビジネスパートナーとしてコーチと契約することを望んだからだ。

「部活動や日本の指導現場の『学校の先生と生徒』という関係性は、社会人になっても地続きで、授業を持ちながらボランティアで指導しているケースも非常に多いです。無料でコーチングしてもらっている状態では、そこに恩が発生して『他の練習やコーチングを試したい』と思っても試しづらい。対等な関係として、指導者も指導への責任感を持ち、選手も自分の競技結果に直結する指導者選びに責任感を持つことが重要だと思っています」

発信するのは「自分がしてきた我慢を下の世代に受け継ぎたくないから」

 コーチという絶対的な立場でもって「選手を依存させる」ような関係性は、ハラスメントを生み出しやすい土壌にもなってしまう。

「たとえば、選手の進路選択を妨害するアカハラ(アカデミック・ハラスメント)として、『他の進路を選びたいけど先生が認めてくれない』と悩んでいた選手もいます。また、セクハラも、コーチとの関係から『ノー』を言えない状況があるのも事実です」

 このようなハラスメント対策として、日本スポーツ振興センター(JSC)は2014年に「第三者相談・調査委員会」を設置。石塚選手は、こういった環境の整備とともに、選手一人ひとりがどういう認識をもって競技と向き合っていくかを考えていかなければ根本的な問題は解決されない、と指摘する。

「私たちはまず『競技は人生のすべてではない、人生の一部である』という考えを持っておくべきだと思っています。競技や競技の結果だけがすべてになってしまうと、焦って不安になり、コーチに依存し、いろんなものを犠牲にして心身の健康を損なってしまうことにつながってしまう。スポーツは本来、自分の人生を豊かにするためにあるものなのに、スポーツを通して傷ついたり、不幸になったりすることはあってはいけないことです」

 石塚選手は、ツイッターやnoteで経験や選手たちはどういうスタンスで競技に向き合うべきかを発信している。指導者との関係や自分の意志が尊重されない競技環境に悩む学生からの感想も寄せられているという。

「陸上を通してきたよかったことはもちろん、次に受け継ぎたくないよくなかったことも、若い世代に向けてたくさん発信していきたいと考えています。自分がしてきた我慢を『そういうものだ』と思って下の世代に強いていくことがないように、そして誰もが当たり前に『陸上をしてきてよかった』『スポーツをしてきてよかった』と思える状態をつくれるまで、大人のアスリートとしての責務として声を上げ続けます。記録を出したり高いパフォーマンスを発揮したりしながら、かつ、『毎日すごくハッピーだったよ』と言える。それこそが競技者として最高の姿ではないでしょうか」

【プロフィール】
石塚晴子 いしづか・はるこ 
陸上選手。1997年、大阪府生まれ。東大阪大学敬愛高校3年時のインターハイでは3冠(400m、400mハードル、4×400mリレー)を獲得。東大阪大学進学後、2017年に退学し、ローソンに入社。実業団で競技を続けながら、女性アスリートや陸上界の課題についてSNSなど発信している。

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