柏原竜二は震災後の箱根駅伝で区間新。恩師2人の言葉と東北への想いを胸に走った (3ページ目)

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • photo by AFLO SPORT

 それでも、避難所ではどこも、「よく来てくれたね」と"地元のヒーロー"である柏原さんを笑顔で歓迎してくれた。

「気軽に『頑張って』なんて言える状況じゃないくらい、まだまだ苦しい時だったと思います。皆さんの強さをただただ、すごいと感じました」

 11月にも福島を再訪し、伝統のレース、「第23回市町村対抗県縦断駅伝競走大会(ふくしま駅伝)」に出場した。中学2年での初出場以来、柏原さんには5度目の出場で、いわき市チームの4区(7.3km)を任された。49チーム中首位でタスキを受けると、「走ってくれて、ありがとう」という大声援にも後押しされ、後続との差を1分27秒に広げる快走。チームの2年ぶり10度目の総合優勝に大きく貢献した。

「あの光景は今でも覚えています。ふくしま駅伝は県民にとって大切な大会なので、あの年は僕から『走らせてほしい』と直訴しました。スポーツを応援している時間は辛いことを一瞬でも忘れられる時間だと思います。僕が走ることで、そんな時間になればうれしいなと思って走りました」

 故郷を応援する気持ちが高まる中で迎えた2012年の箱根駅伝。「レース中はチームの勝利だけを考えていた」という柏原さんがタスキを受けて走り出すとまもなく、運営管理車内の酒井監督から声がかかった。

「いいか、柏原。1区から4区の選手のおかげで、1位でタスキがつながった。しっかり終わらせるぞ」

 自然とギアが切り替わった。結果は、2年前に自身が作った区間記録を29秒更新する区間新(1時間16分39秒)での往路優勝。達成感に浸っていると、酒井監督から一言。

「コメント、考えておくように」

 ふいに我に返って考え、勝者として壇上で発したのが冒頭のメッセージだった。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る