阪口竜平が日本選手権初V。まったく歯が立たず→1年で好敵手に勝利 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Nakamura Hiroyuki

 阪口も「たぶん切れるだろうな」という感覚はあった。だが、あと何秒でいけば大丈夫なのか、具体的なタイムを把握していなかった。体力的にきつく、走ることに精一杯だったため、タイム計算ができなかったのだ。

「あ何秒で切れるとか、具体的に言ってくれたら頑張れたんですけど......まあ、追い込めない自分が悪いんです。『切れるぞ、切れるぞ』と言われて、そこで油断してしまったというか、自分の力不足でした」

 最後のストレートに入り、渾身の力を込めて走り抜いた。タイムは8分2985。自己ベストを更新しての見事な初優勝だったが、世界陸上参加標準記録突破まで0秒85足りなかった。

 レース後の阪口の表情は、優勝した喜びと標準タイムを切れなった悔しさが混在していた。

「昨日のサニブラウン選手とかぶって(同じことを言って)申し訳ないですけど、なんとも言えないですね。世界陸上の標準を切れば、この場で泣けるチャンスだったんですけ。(優勝して)嬉しいような、嬉しくないような......そんな感じです」

 最大のライバルに勝った上で世界陸上への出場権を獲得する。世界に挑むことは、来年の東京五輪を考えると、塩尻に勝つこと以上に重要なミッションだった。ただ、世界陸上の門はこれで閉ざされたわけではない。

 西出コーチは言う。

「7月いっぱいまで世界陸上の参加標準タイムを切るチャレンジをしていこうと思います。ベルギーのアントワープ大会を予定していますが、選手が揃っていないという情報が入っていますし、今の足の状態を考えるとどうかなと。行かない場合は、網走(ホクレン・ディスタンス)で3000SCにエントリーする予定です。その後は夏合宿に入るので難しくなりますが、一応、全日本インカレまでチャンスがある。インビテーションがあればいいんですけどね......」

 世界陸上出場へのチャンスはまだあるが、懸念されるのはこの日痛めた左足だ。立って話をするのもきつく、表彰式にはアイシングをして足を引きずりながら参加していた。無理をするとさらに悪化する可能性があり、これから様子を見て判断するという。

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