設楽悠太、大迫傑の激走で日本マラソン界は「オレ流」時代に突入か (2ページ目)

  • 佐藤 俊●文 text by Sato Shun
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

 だが、一番勇気づけられたのは、給水ポイントで家族が作ってくれた給水ボトルに書かれたメッセージだった。

「ラストファイト!」

 そのメッセージを右腕に付け、前を追った。日本記録は42km地点、2時間05分40秒を切ったぐらいのタイムがボードで見えた時、意識した。そこから母校、東洋大のキャッチフレーズ「1秒を絞り出せ」の如く、腕を振り、歯を食いしばって走った。

 ゴールの瞬間は記録突破を確信して、右手をあげてガッツポーズをした。そのまま競技人生で初めて地面に倒れ伏した。

 レース後も疲労が大きく、足にもダメージが残っているのだろう、片足を引きずるようにして歩いていた。これこそ全力を出し切って42.195kmを走った証(あかし)だった。

 こうして、ついに日本マラソン界の頂点に立った設楽だが、その強さと記録達成には3つのポイントがある。

 ひとつは独自の練習方法だ。設楽の練習は「40kmは走らない。30km走で十分です」と言うように、マラソン練習にありがちな40kmを何本も走るというオーソドックスなスタイルではない。実戦重視で、この東京マラソン前にも3本のレースに出ていた。試合でレース感覚を養い、タフに走れる体と足を作り、さらにレースからいろんなことを学ぶ。川内優輝のやり方にも通じる、試合こそが最高のトレーニングの場という感覚だ。

 実際、設楽は東京マラソン後も「勝負するところ、抑えるところ、仕掛けるところは今回、勉強になりました」と、成果を語っている。

 マラソンをいかに速く走るか──。そのメソッドは大迫傑(すぐる)のスタイルが独特なように現在では多様化し、どれが正解かわからない状態だ。だが、設楽が実戦重視スタイルで日本記録を出したことで、その方法論は今後より注目されることになるだろう。

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