伝説のシューズ職人・三村仁司「左右のサイズの違いに注目して」 (4ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi 杉原照夫●写真 photo by Sugihara Teruo

また、シューズを選ぶ場合は本人のフィッティング感が最重要だが、自分の左右の足のサイズに違いがないかも、気をつけなければいけないという。三村が作る場合は大きさも2.5㎜単位にしているが、メーカーの場合は5㎜単位だ。だが、20人に1人くらいは左右の足のサイズが5㎜以上違い、中には7.5㎜から1cmも違う人も100人に1人くらいの割合でいるという。

「以前うちに、2人でゴルフシューズを作りに来た人は、2人とも左右の足のサイズが5㎜違っていて、1人は右が26.5㎝で左が26㎝。もう1人は同じサイズで左右が逆で......。それで『あなたたちは26㎝と26.5㎝の靴を買って、片方ずつ交換したらいいんですよ』と言ったんです。そのあとはいつも一緒に靴を買っているそうですが、そういうこともあるんですね(笑)。

 左右別々のサイズを買えるようにメーカーが対応するのは無理だろうけど、市民ランナーでも、そういう気遣いや工夫も必要だと思いますね。特に市民ランナーの人たちはみんな、年齢がいけばいくほど頑張っているから道具は大切にしないと......」

 また、かつて三村は生まれてから36年間歩けず、靴を履いたことがない人の母親から「一度靴を履かせてあげたい」と頼まれてシューズを作ったことがあるという。その人が初めて靴を履き、車椅子から立ち上がった姿を見た母親は号泣していたそうだ。そんなキッカケもあり、左右の脚の長さが5㎝も違って市販の靴ではうまく歩けないなど、障害のある人からシューズ作りを頼まれることも度々あるという。

「これからは高齢化社会になって、歩くくらいは自分で何とかしたいという人も増えるだろうから、そういう人たちにも履きやすい靴を作ってあげる必要もあると思いますね。外反母趾がひどい人もいるから、そういう人たちがラクに履ける靴も提供できればいいと思います」

 三村は外反母趾で苦しんでいる人が来ると、お風呂に入った時に3~4分伸ばしてみるのもいいとアドバイスしている。それもプロ野球の新庄剛志が、三村が何気なく口にしたアドバイスをずっと実行し、アメリカから帰国した時には外反母趾をきれいに直していたという事実があったからだ。「お前手術したのか、と聞いたら、『社長に言われた通りにやっていたら治ったんです』といわれてビックリした」といって笑う。

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