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国枝慎吾が国民栄誉賞を受けた本当の意味「車いす利用者がもっともっと受け入れられるように...」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • 中島正和●撮影 photo by Nakashima Masakazu

── 引退後の喪失感ということで言うと、1月の全豪オープン直前に引退表明し、いわゆる引退試合はしませんでした。全豪に出て終わるという考えはなかったのでしょうか?

「そこはけっこう、迷いましたね。実際、引退を決めた直後が一番つらい時期というか、『本当にこの決断がよかったのかな』と悩む時期でもあって......。

 もちろん引退は決めていたんですが、さっき言ったように、何をやったらいいのかわからない状態になってしまうと、『果たしてテニスを辞めたことがよかったのか? 今から全豪オープンに向かったほうがいいんじゃないのか?』という思いも正直ありました。でも僕のなかでは、昨年のウインブルドンで優勝したあとに、やりきったという思いがすごく強かったんですね。

 それまでは、(唯一取っていなかった)ウインブルドン・シングルスのタイトルや、東京パラリンピックの金メダルへの熱がずっとあった。それがなくなってしまった時に、このまま目標がないなかでテニスを続けていくことは、今まで自分がやってきたことに反しちゃうなという思いが、まずひとつあった。

 熱のない空気のままやることは、自分のポリシーに反する──。引退の決め手となったのも、そのような思いだったので、今ここで全豪に行って仮に優勝したとしても、その空虚さが埋まることはないだろうなと思いました。

 今回の引退は、富士山を見た時に決めたんです。これまでひとつの山を登ってきたけれど、違う山を見つける作業もまた、すごくチャレンジングだと思うんですね」

── 国枝さんは常々「車いすテニスをスポーツとして認められるようにしたい」とおっしゃってきました。引退を決意した背景には、その目標が達成されたとの思いもあるのでしょうか?

「そうですね。この飯塚の大会も、僕が最初に出始めた頃より何倍もお客さんが来るようになりました。楽天オープンは2019年から車いす部門が健常者と同時期・同会場開催になりました。

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