パラスキーのレジェンド、新田佳浩が選手兼コーチとして過ごした1年 そこで見えた「日本チームの未来」と「もうひとつのゴール」 (3ページ目)

  • 星野恭子●取材・文・写真 text&photo by Hoshino Kyoko

【視野を広げ、すべてを糧に】

 今季は好結果を残したものの、42歳という年齢相応の衰えも感じたという新田。だが、新境地で挑んだ1年はまた、現役選手としての自身にもたしかにプラスがあったと振り返る。常々、「選手としてやるからには勝ちたいという気持ちを持ち、メダルを獲れる位置にいたい。そうでないと、やっている意味はないという思いはある」と言いきる。後進の育成を意識しつつも、いち競技者としての取り組みにも妥協はしない。

「(教え方を)試行錯誤してきたなかで、できることがあたりまえだったことが、今季の自分にはなぜできないんだろうと思うこともあった。そこから、どうしたら自分がもっと強くなれるのか、来季にもっと試してみたいと思えたのが今季の大きな収穫のひとつ。新しい取り組みに臨めるチャンスなのかなと思っています」

 若手から学び、自身の競技に生かせるような発見もあった。たとえば、ノンストックで走る川除の速さの理由を考え、ひざ下の使い方がうまく、上半身の動きで得たエネルギーをスキーに伝える能力や脚のバネなど、コーディネーション能力がポイントだと気づいた。

 海外チームの強化体制やトレーニング方法に関する海外の文献などを参考にし、科学的なデータも活用していく考えを示した。たとえば、インターバルトレーニングも従来のよりも距離を伸ばすことで心肺機能や耐乳酸機能を高め、「苦しくなっても、ロスのないフォームを崩さないことの意識づけを身につける練習」などにも取り組みたいという。

 中学生だった新田のポテンシャルを見いだし、20年以上も指導してきた"恩師"、日本障害者スキー連盟の荒井秀樹強化副本部長は新田の今季の活躍について、「川除くんがチームリーダーとして結果を出している分、新田くんは肩の力が抜けて競技に向き合うことができ、結果に結びついているのではないか」と振り返り、「クロスカントリースキーは世界的にも選手寿命が長い競技。オリンピックでも40代で活躍する選手もいる」とさらなる活躍に期待を寄せた。

 選手として強い背中を見せながら、ときには並走して声を聞き、アドバイスを授ける――自分にしか担えないポジションに挑み、新田はチームも、自分自身もより高みへと引き上げる。

「川除選手以外の選手もメダルに近づけるようなアドバイスを、これからもやっていきたい。そのうえで僕自身も、選手としてメダルを獲れれば、それは、僕にとってのもうひとつのゴールなのかなと思っています」

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