「僕の心に永遠に残る」「ベストを引き出してくれた」海外トップ選手が語り継ぐ国枝慎吾のレガシー (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

【僕は引退を信じなかった】

 38歳の国枝の引退は、ヒューエットにとって「驚き」だったという。

 年が明け、全豪オープンの前哨戦が始まった頃、大会のロッカールームには「シンゴが引退するらしい」との噂が飛び交っていたという。

「でも僕は、信じなかった。だって最後に話した時、シンゴは『全米オープンのリベンジをしてやるぞ!』と僕に言ったのだから」

 両者にとって最後の対戦となったのが、昨年9月の全米オープン決勝戦。頂上決戦を制したヒューエットは、国枝が再戦を望んでいるのを感じたという。

 だからこそ、「正式な引退発表があった時は、大きなショックだった」と言う。

「この競技そのものにとっても、とても残念なこと。このような伝説的な選手がラケットを置くのは悲しいし、もう彼と対戦できないのも寂しい。 彼との対戦はいつも楽しみだったし、すばらしい時間だった。彼が勝つこともあれば、僕が勝ったこともある。特に去年のウインブルドンでの試合は、僕の心に永遠に残ると思う」

 そう言うとヒューエットは、年齢より幼く見える童顔に複雑な笑みを浮かべた。

 彼にとって国枝は、絶対的なライバルであり、ロールモデルでもあったのだろう。その想いは、次の言葉に象徴されていた。

「彼がコート上で示してきた、すべての瞬間を全力で戦う姿は、とてつもないインスピレーションだった。それは僕だけでなく、すべての人々にとって──。

 車いす界だけでなく、健常者のテニスコミュニティからの彼に対する反応を見た時、その事実を痛感した。 多くの人が、彼を心から尊敬している。 彼が残したレガシーは、測り知れないものだった」

 今大会の出場選手中、国枝本人から直接引退を伝えられていた選手に、イギリスのゴードン・リードがいる。

 リードは国枝より7歳年少の31歳。両者はシングルスだけで41度の対戦を重ね、戦績はゴードンが9勝32敗と負け越している。

 ゴードンにとって国枝は、常に行く先に立ちはだかる壁。同時に国枝にとっても、ウェア契約が同じUNIQLOということもあり、同志的な想いが強い選手なのだろう。

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