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「行けー! 行けー!」「もう奇跡とは言わせない!」 豊原謙二郎が語るラグビーW杯での名実況はこうして生まれた (3ページ目)

  • 一ノ瀬伸●取材・文 text by Ichinose Shin

NHK退局後、コンテンツ制作会社「INFINITY MOMENT」を立ち上げた豊原謙二郎氏 photo by SportivaNHK退局後、コンテンツ制作会社「INFINITY MOMENT」を立ち上げた豊原謙二郎氏 photo by Sportivaこの記事に関連する写真を見る── スポーツ実況のゾーン。長年の経験と鍛錬がなせる仕事です。

豊原 アナウンサーの仕事もスポーツと似たところがあると感じることがありました。私は学生時代にラグビーをやっていて不器用でなかなか芽が出なかったのですが、意識して練習を続けたらある時視野が一気に広がったという経験があります。

 アナウンサーのキャリアは、高校野球のラジオ中継から始まって、最初の頃はアウトカウントをよく言い忘れてしまいました。当時厳しかった上司に「何アウトだ!」ってよく怒られて。でも意識し続けると、いわばオートマチックに言えるようになっていく。意識してなかったら、永遠にその日は訪れないんですよ。そうしてしゃべることに使う脳みその割合が少なくできると、プレーをしっかり見ることに頭を使えるようになって実況の幅も広がっていきます。

【すべての現象には必ず理由がある】

── 競技を問わず、スポーツ実況をするうえでこだわっていたことはありますか。

豊原 選手のすごさが出る一瞬を絶対に見逃さないことです。学生スポーツでもプロのアスリートでも同じで、鍛え上げられてきた肉体とスキルが超絶レベルで発揮される瞬間があるわけです。高校野球だったら球児たちが2年半練習してきた成果が出る瞬間。それを伝えないと、花火が打ち上がった時によそ見をしているようなものです。

 事前に話を聞いて全選手の努力のプロセスを知っておけたらいいですが、当然全員を取材できるわけじゃない。だから、とにかくよく見るようにと先輩から教わりました。私たちはそれを「見る取材」と言っていて、見る取材をずっと続けているとプレーに疑問を持ったり、選手の変化に気づいたりできるようになっていきます。

 仙台放送局時代の東北楽天イーグルスの取材は、自分がスポーツ実況でレベルアップできたかなと感じた経験ですが、選手や監督・コーチ、編成へ直接話を聞くとともに、ホームゲームの日は夕方から球場へ言って見る取材を続けました。たとえば、選手に「グリップを握る位置を変えましたよね。なんでですか?」と自分の気づきを伝えると、相手もいろいろと話してくれやすいように感じましたね。

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