「行けー! 行けー!」「もう奇跡とは言わせない!」 豊原謙二郎が語るラグビーW杯での名実況はこうして生まれた (2ページ目)
── あの名実況は、試合中に思いついたものなのですね。
豊原 「準備してたんじゃないの?」ってよく聞かれますが、原稿はありませんでしたよ。試合中に思いついたとはいえ、当然そればっかりを考えていたわけではなく頭の片隅で、です。解説の廣瀬俊朗さんと坂田正彰さんに「この勝利は奇跡じゃないですよね?」って尋ねるプランも頭をよぎりましたが、ちょっと弱いなと。もっと力強くメッセージを打ち出したかった。そんな思いがほとばしりました。
【視聴者とシンクロする意識は大事】
── 歴史的なプレーを目の前に感情が高まって、自然に言葉が出てくるという感覚なのでしょうか。
豊原 若干の冷静さはあるんですが、感情のまま言葉を発射するかどうかは、アナウンサーによってタイプが分かれるところだと思います。私は「言っちゃえ!」と発射するタイプ。ただ、テレビを見ている人たちとシンクロする意識は大事にしていました。視聴者の熱量に対して、こちらが高すぎるとか低すぎるとかあまりにもギャップがあるとよくない。
それでいうと、南アフリカ戦は、世界の多くのラグビーファンが「行けー!」と思っているだろうと、言葉を発射しました。もちろんいろいろ細かく計算できるほど冷静ではないので、感覚的なものです。ただ、叫んだあとは正直、怒られると思いました。NHKのアナウンサーはあくまで「客観的に」というのが基本なので、「行けー!」って単に応援じゃないですか。結局、それほど怒られることはなかったですけど。
── 興奮しながらも各方面を考慮しながら言葉をつむぐ離れ業です。
豊原 南アフリカ戦の実況については、アスリートがよく言うゾーンというものに、もしかしたら自分も入っていたのかなと感じています。興奮しながら実況しているのですが、選手の動きや人数は冷静に見ていて、(逆転トライを決めたカーン・ヘスケスにパスを出した)アマナキ・レレィ・マフィが相手をハンドオフした瞬間に、"あっ、トライだ"って思ったんですよ。
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