「双子姉妹」葛西優奈・春香がノルディック複合女子で快挙 オリンピック正式種目採用の夢を胸にさらなる成長を誓う
世界選手権複合女子で日本初の優勝者となった葛西優奈(右)と3位・春香の双子姉妹 photo by Kyodo Newsこの記事に関連する写真を見る
ノルウェーで行なわれているノルディックスキー世界選手権(現地時間:2月27日〜3月8日)の複合女子(マススタート)で、日本の葛西優奈が日本勢初の優勝を果たし、双子の妹・春香(ともに早稲田大)も3位に入り、そろって表彰台に上った。
幼少期からノルディックスキーに打ち込み、互いに切磋琢磨しながら世界のトップクラスの領域に足を踏み入れたが、まだまだ成長過程。主戦場とする複合女子個人、また複合混合団体はまだ五輪の正式種目に未採用だが、ふたりは欧州の強豪国以外の自分たちが頑張ることで、「雪上の夢舞台」実現に近づくという思いも抱えている。
日本でも名が広く知られるようになった今回の快挙を出発点に、これからも高みを目指していく。
【「IOCへのいいアピールにもなっていく」】
2月27日からノルウェーのトロンハイムで開催されているノルディックスキー世界選手権。27日に行なわれた複合女子マススタートで、世界選手権3回目の出場となる葛西優奈が日本女子として初の優勝を果たし(男子も含めた日本勢の個人優勝は1999年ジャンプ・ノーマルヒルの船木和喜以来)、双子の妹・春香も前回の2023年大会に次ぐ3位でダブル表彰台の快挙を果たした。
マススタート女子は、先に一斉スタートによる距離5km(クロスカントリー)、後半にジャンプ(ノーマルヒル)1本を行ない、それぞれの記録をポイント化して競う方式。この種目では今年2月7日のワールドカップ(W杯)・エストニア大会で優奈がW杯初優勝を遂げ、春香も2位に入り姉妹でワンツーフィニッシュを果たしており、ふたりはその自信を持って世界選手権を迎えていた。
最初の距離ではともに先頭集団でレースを進め、優奈はトップのギダ・ウエストボルドハンセン(ノルウェー)に3.6秒差(ジャンプ得点0.9差)の3位につけると、後半のジャンプではわずかな向かい風のなかで96.5mを飛び(ジャンプ3位)優勝。クロスカントリーでは8位だった妹・春香も96.5mを飛び(ジャンプ2位)、5人抜きで表彰台に食い込んだ。
ふたりはともに、2022年に日本スキー連盟のネクストヒロイン賞を受賞していた有望株で、着実に力をつけた結果と言える。しかし、ノルディック女子複合は非五輪種目。オリンピックでの正式種目化に期待がかけられてきたが、来年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪での採用はなかった。
その状況を踏まえて、春香は今回の結果の意味を次のように話した。
「マイナー競技なので、今回の表彰台で日本国内の注目度も上げられたらいいなと思います。それに(世界大会で上位を占める)ノルウェーとドイツ、オーストリア以外の私たちが表彰台に上がれたことをきっかけに、もっといろんな国の選手が活躍するようになればIOC(国際オリンピック委員会)へのいいアピールにもなっていくと思います。
これから、女子コンバインド(複合)もいろんな国が強くなり、表彰台に入れ替わりで上がるのが目標になってくると思います」
強い思いは、翌28日の複合混合団体でも現れた。
1国男女各2名、計4名のチーム構成で行なわれるこの種目は、先にジャンプ、その後距離を実施する方式。ジャンプ1本ずつの得点合計を換算したタイム差で後半の距離をスタートし、男子5km・女子2.5kmを走るレース。こちらも現状、五輪種目ではないが、世界選手権では前回大会から採用されている。
昨季までのW杯や世界選手権ではノルウェー、ドイツ、オーストリアに次ぐ4、5位が定位置となっていた日本代表は、五輪3大会メダリストの渡部暁斗(北野建設SC)、男子W杯総合日本勢トップの山本涼太(長野日野自動車SC)、葛西姉妹で臨んだ。勝負の行方は距離の最終盤までもつれる展開となり、オーストリアにわずか0.2秒及ばず4位。しかし、ジャンプで100mを飛びグループトップ、3走を務めた距離でも力走見せた春香は、納得の様子だった。
「何回もこのメンバーでチームを組んできた中でも、今回は見ている人も面白いし私たちも本当に面白いなと思える試合ができたと思います。五輪採用がないのは強い国が固まっていることが原因だと思うので、最後までどっちが勝つかわからないレースができたのは、五輪(の正式種目になるため)に向けてもいい試合ができたのではないかと思います」
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著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。