パリオリンピック日本の旗手・江村美咲は女子サーブル「世界女王」 強さの理由を東京五輪金メダリストが分析 (2ページ目)

  • 宇山賢●文 text by Uyama Satoru

 フェンシングの各プレーは、双方の選手が「en garde(アンガルド)」と呼ばれる構えの姿勢をとってから、主審の「用意はいいか?」を意味する「prêt(プレ)」と、「はじめ!」を意味する「allez(アレ)」の発声によって開始されます。

 この時に江村選手は、相手の選手よりも後に構えることがほとんどで、それが彼女の特徴のひとつとも言えます。おそらくこれは、一種の"ルーティン"のようなものだと思いますが、彼女は「審判の号令による受動的な構え」ではなく、「今から始まるプレーに対して能動的に構える」ということをとても大切にしているのでしょう。多くの選択肢の中から戦術を決定しなければならない攻防に備え、この瞬間にメンタルを切り替えているのではないかと思います。

【相手を仕留める迷いなき攻撃と、繊細な準備動作】

 江村選手のプレースタイルは韓国、フランス、そして日本と3カ国のメソッドから構築されています。

 まずは2012年のロンドン五輪で、韓国に男子サーブル団体の金メダルをもたらし、同大会後に日本代表に赴任した韓国人コーチ、リー・ウッチェ氏の指導です。

 厳しいチーム統率と、途方もない反復練習が同氏の指導の特徴です。身長やフィジカルといったヨーロッパ勢に劣る部分を埋めるために、フットワーク(足運び)の技術のトレーニングに力を入れるようになりました。その技術の習得にはフィジカルトレーニングも非常に重要で、選手たちの身体は日に日に大きくなっていったように感じましたし、この頃から、相手を追い込んだ時に仕留めきるダイナミックな攻撃が日本選手の強みとなりました。

 続いては、2021年の東京五輪後にフランスからやってきたジェローム・グース氏。私が現役を退いたタイミングだったため、具体的な練習の状況などは把握できてしいませんが、「プレパレーション」と呼ばれる攻撃に入る前の準備動作に変化があったと感じています。

 この動作は、相手との間合いや、相手の次の行動などの"情報"を引き出すためにとても重要です。もともとの江村選手の持ち味だったダイナミックな攻撃に、繊細さと柔らかさが加わったことで、世界トップを走るプレースタイルに到達したのではないかと私は考えています。

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