「お手本は本田圭佑」「アスリートは特に炎上しやすい」専門家が指摘する、アスリートによるSNS利用の功罪 (3ページ目)

  • 小林 悟●取材・文 text by Kobayashi Satoru

●SNSはメンタル面に悪影響?

 SNSで投げかけられる誹謗中傷によって、アスリートが知らず知らずのうちにストレスを蓄積させていることがあると、西多さんは警鐘を鳴らす。

「人間というのは辛いことは心に残るものです。SNSで否定されたり、攻撃されたりすると、いったんは落ち込みが回復したように感じていても、実際は傷ついた状態が続いているものです。それがプレーに悪影響を及ぼすこともあるでしょう。

 SNSで受けるストレス、心のダメージは『いいね』やフォロワー数では相殺できないということも覚えておかねばなりません。特にアスリートはストレスの言語化が苦手な人が多い傾向にあるので、所属チームがメンタル面を支えていく環境整備も必要です」

 アスリートとしてのパフォーマンスを最大化しながらSNSを使いこなすにはスキルが求められるだろう。そんななか、西多さんはサッカー元日本代表の本田圭佑に注目する。

 ツイッターのフォロワーは175万人以上。サッカーに限らず、日常生活のささいな気づきから、時事ネタなど投稿内容は多岐にわたり、英語での発信も。

 今年初めには、コンビニのレジ袋を巡って店員の対応に関するツイートをして炎上。その後、フォロワーの意見を参考にし、考えをあらためる見解を示した。以前にも漢字の「清々(すがすが)しい」の読み方を間違え、指摘されると素直に知らなかったことを認め、「もう覚えました」と前向きなツイートで落着となった。

「本田さんは独自路線の発言を貫きながらも、フォロワーの指摘に対してムキにならず素直に認めることができる。このような対応は、SNSにおけるコミュニケーションの上で重要だと思います。

 自身の軸をブレることなく、論理的な発信を続けている点では400mハードル日本記録保持者の為末大さんもすばらしい。感情のコントロールの仕方、言うべきこととそうでないことの線引きがきっちりできる方なのだと感じます。

 現役アスリートでは、スケートボードの堀米雄斗選手が上手にSNSを使いこなしています。動画と写真プラス事実や広報という淡々とした内容なので、本人のさわやかキャラとも合って高い好感度、低い嫌悪度となっていると思います」

 アスリートのSNSをめぐっては、それぞれが自分なりの活用方法を模索中だろう。一方で、大衆の寛容な姿勢も求められる。


【プロフィール】
西多 昌規 にしだ・まさき 
早稲田大学教授 精神科医。東京医科歯科大学卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学客員研究員、スタンフォード大学客員講師などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院・教授。精神科専門医、睡眠医療専門医、日本スポーツ協会スポーツドクター。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス、アスリートのメンタルケア。著書に『休む技術2』(大和書房)など。

著者プロフィール

  • 小林 悟

    小林 悟 (こばやし・さとる)

    フリーライター。1981年、福井県生まれ。週刊誌『サンデー毎日』(毎日新聞出版)、『週刊文春』(文藝春秋)、『集英社オンライン』(集英社)などで食や暮らし、スポーツにまつわる話題を中心に執筆。

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