「ホント天国か地獄かって感じですね」。アーチェリーの銅メダリスト武藤弘樹が振り返る責任重大のあの場面 (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by JMPA

 団体戦で勝つために、地道にチームワークを育んだ。合宿の時は、食事や移動中、さらに練習中も刺さった矢を抜きにいく時にコミュニケーションを取り、お互いのプレースタイルや性格を理解し、そのなかで自分をどう出せるのかを考えた。また、先輩の古川の負担を減らすべく、武藤は同年齢(24歳)の河田とふたりでチームを引っ張ろうと決めた。

「自分たちふたりが引っ張って古川さんに負荷をかけないようにやっていくことが、チームとして一番強くなると思ったんです。同時に声を出したり、若い僕らが熱を出していこうと考え、それを全開でやってきました。僕はすごくいいチームになれたと思っています」
 
 団体戦後、男子個人戦がスタートした。銅メダルの勢いそのままに違う色のメダルを、という期待が高まったが、武藤はうまく風が読めず、1回戦で姿を消した。

 こうして武藤にとって、初めての五輪が終わった。

「五輪が始まる前、五輪が終わったあと、どういう気持ちになるんだろう。メダルを獲って満足してしまったらどうなるんだろうって思っていたんです。実際、メダルを獲れたんですが、日が経つにつれて、『なんだ、3位か』と思ったんです。1位を獲るまでは終われない。やっぱりアスリートなんだなって思いましたね」

 アーチェリーを始めた時から負けたのが悔しくて、もう負けたくないと思って練習してきた。中学の時からのアーチェリーに対する思いは、日本代表になっても変わらず、五輪でメダルを獲っても変わらなかった。そのことを改めて気づけたことは、武藤にとってこれから先に進む上で大きなモチベーションになる。となれば、次はパリ五輪で、東京で負けた分を取り返しにいくことになる。

「パリ五輪を目指しますが、今のままでは勝てない。これまで射ち方とか、技術に重きを置いてやってきたんですけど、今より上を目指すためには試合の組み立て、流れを考え、さらに判断力、決断力が必要になります。そうしてさらに強くなって、次はもっといい色のメダルを獲りたいですね」

 パリ五輪で違う色のメダルを獲れば、どういう気持ちになるのだろうか。

 なんだ1回金を獲っただけだ。これを続けないと意味がない。きっとそう思うのではないだろうか。ひとつ山を越えても次を目指すのがアスリートだが、武藤の生き方はまさにそうだ。

 ただ、武藤がほかの選手と違うのは、引退後のビジョンを明確に描いているところだ。

「僕は、最後までプレーヤーでいるよりもアーチェリーを広めたり、教えたりするほうに進んでいきたいんです。水泳とか、体操にはスポーツクラブがあるけど、アーチェリーにはない。アーチェリーは、自分と向きあうスポーツですし、新しい自分に出会えると思うんです。そうしたクラブで底辺が広がると競技者が増え、競技環境もよくなると思うんです。ぜひ、実現していきたいですね」

 武藤ならその時も他の競技に負けたくないと、きっとすばらしいクラブを作ってくれるはずだ。
 

FMヨコハマ『日立システムズエンジニアリングサービス LANDMARK SPORTS HEROES

毎週日曜日 15:30〜16:00

スポーツジャーナリスト・佐藤俊とモリタニブンペイが、毎回、旬なアスリートにインタビューするスポーツドキュメンタリー。
強みは機動力と取材力。長年、野球、サッカー、バスケットボール、陸上、水泳、卓球など幅広く取材を続けてきた二人のノウハウと人脈を生かし、スポーツの本質に迫ります。
ケガや挫折、さまざまな苦難をものともせず挑戦を続け、夢を追い続けるスポーツヒーローの姿を通じて、リスナーの皆さんに元気と勇気をお届けします。

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