岩田健太郎は東京五輪に不安。「できない基準が設定されていない」 (4ページ目)

  • 木村元彦●取材・文・写真 text & photo by Kimura Yukihiko

―― しかも、五輪に関わる医療従事者、約5000人についてはコロナ前の計画同様に無償ボランティアでということになっています。一方で組織委員会の役員は有償で最高で月収200万円とも言われています。歪んでいる構図ですね。

「そんなことをやる余裕のある医療従事者がその時まだ残っているんでしょうかね。北海道なんか、今もう(医療体制が)つぶれそうになっていますから。僕は繰り返しになりますが、2020東京五輪にはできない基準が設定されていないから不安なんです。『事態がここまで来たら絶対できません』という、それさえ作らないというのが一番無責任なやり方です。海外の大会で言うと、今年の予定であったサッカーのヨーロッパ選手権が延期になりましたよね」

―― 60周年で分散開催を予定していたユーロ2020ですね。

「12カ国にまたがってやる予定だったかなり巨大な大会を即座に延期にした。ヨーロッパは確かに状況があまりに悲惨なので、他に手はなかったと思うんですが、ユーロ2020が2021に延期になって、それがかなり高い可能性で中止になった時に、じゃあ東京オリンピックはなぜできるんだとなります。

 すごく厳しい命題を突き付けられると思います。サッカーは言ってみればシングル競技なので、無観客でやればやってできないことはない。だけど、オリンピックみたいな多競技で、しかも観客はPCRだけで14日間隔離期間も置かずに世界中から来て、公共交通機関を使っていいですよ、というそんなザルみたいなやり方ではダメです」

―― 現在はコロナの第三波という言い方がされていますが、その見立てとしてはどうですか。

「僕は個人的には2波が終わらなかったと思っています。2波が下がりきらずに、そのまま上がっていった。2波が収められなかったというのが真相だと思います。日本政府は何も対策をしていないので感染者は増えるに決まっています。この7月以降、お上がやっていたことは、医療機関のベッドの調整とかPCRとかホテルを作ったりという、感染者を受け入れる体制はわりと作ったんだけど、感染者を減らすことについては全く無努力だったわけです。ほぼほぼゼロ。大阪府知事のイソジン発言については失笑するしかなった。そりゃ増えるに決まっていますよね」

―― 五輪開催において、コロナが出てPCR陽性になった場合の信頼ができない。集団感染を起こして検疫体制に入ったダイヤモンド・プリンセス号の時も、帰国してから発症した人は、政府はカウントしていなかった。船に乗り込んだ橋本岳厚労副大臣(当時)は「ゾーニングは出来ている」というまったく出来ていない写真をツイッターに載せたり(後に削除)、「ニ次感染は起きていない」とか、当時は嘘をついていました。最高責任者がそうでした。その一方で献身的に一生懸命やっている人ほどすごいバッシングを受けていました。怖いのは、そこで沈黙を強いられていくことだと思います。

「かなりメンタルをやられた人はいたと思います。でも、プロはやっぱりそこで継続します。五輪についてはさっき言ったとおりで、やってもやらなくてもいいんだけど、やらない基準を作らないというバッハさんと菅(義偉)さんの話し合いが象徴的にダメだと思います」

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