幻覚が襲う過酷なレースで、鏑木毅は
挫折だらけの人生をリセットした (4ページ目)
鏑木選手は自分のことをランナーとしては三流、四流という。
そんな特別才能のない自分が世界で3位になれた。
それは挫折の連続だった人生前半の思いをリセットする、大きな成功体験となった。しかしその世界3位という地位が、のちの鏑木選手を苦しめることになる。
「世界3位」の呪縛
UTMBで3位になったことで、世界トップのトレイルランナーとして認められた鏑木選手。
でも一度高い位置まで登り詰めてしまうと、その立場を維持したいと思うのが人間だ。
その後、鏑木さんは自分自身に世界トップであり続けることを求め、スポンサーなど周囲もそれを期待した。ただその思いと反比例するように、鏑木選手の体は年齢を重ねていく。
プロとして結果を出し続けなければならないプレッシャー。「世界3位」であり続けなければならないという焦り。やっとの思いで手に入れた輝きを失いたくない。
その理想と現実のギャップが異変として吹き出したのが、45歳のときフランス領レユニオン島でのレース中に起こった心臓トラブルだ。
結果だけを求めて走るプレッシャーとストレスに体は耐えきれなくなっていた。その時、鏑木選手は「このままでは俺は死んでしまう」と感じたという。
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