【体操】50年前の「ゆか金メダリスト」を今、採点すると? (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi photo by Getty Images

 昨年、ベルギーで行なわれた世界選手権の種目別ゆかで金メダルに輝いた白井健三は、予選で新技のひねり技を連発し、16・233点という高得点を叩き出した。最高難度の『4回ひねり』を含めたひねり技を9回も入れた白井のDスコアは7・4点。メニケリ(3・5点)と比べると、一目瞭然の差である。

 ただ、このような得点差を示した上で、遠藤氏は両者の演技についてこう説明した。

「ひねり技に関して言えば、当時はオリンピックで『1回ひねり』を入れるだけでも、すごいことだったんです。1970年に世界で初めて『3回ひねり』を披露したのは、オリンピック3大会で合計9個のメダルを獲得した監物(けんもつ)永三さんです。それから40年間以上、ゆかの種目では『3回ひねり』が人類の限界点だと言われていました。白井選手が披露した『4回ひねり』は、体操器具の進化も関係しているでしょう」

 50年前のゆか種目は、木材の上にウレタン素材のマットを載せ、その上にじゅうたんを敷いた造りで演じていた。しかし現在では、マットの下にスプリングが敷き詰められ、大きな反発力を生むように進化している。

 また、遠藤氏は、「体操競技に求められるものも、当時と今とでは異なっている」と語る。

「東京オリンピックでのメニケリ選手を見てみると、タンブリングの難度だけではなく、技のつなぎ部分でバランスをとったり、身体を前方に伏せたまま脚を前後に開いて柔軟性を見せたり、そこから飛び跳ねるような動きを加えたりと、様々な身体的表現を演技構成に組み込んでいます。当時は、そういう体操競技全般の動きが求められていました。演技の流れの中で、物語性のある芸術作品のような表現をするのが、ゆか種目だったんです」

 だが、現在はG難度まで増えた難度の高い技を、いかに限られた時間の中に詰め込むかが勝負のカギとなっているため、演技内容に物語性を盛り込む余裕はない。時代の流れとして仕方のない部分はあるにせよ、「人間味のあったものが、次第に機械的なものになってしまった」と遠藤氏は言う。

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