【スキージャンプ】ソチ五輪へ。
選手の実力以上にカギを握る「スーツ」の開発競争 (2ページ目)
今季、そんな僅差の戦いを演出しているのが、新たなレギュレーションが適用されたジャンプスーツだ。
スーツの新ルールは、夏前に発表された時点では体のジャストサイズ、+0cmだった。これはスーツによる有利不利をなくすためのルール改正だった。それに対応した日本勢は7月からのサマーグランプリで、ノルディック複合からジャンプに転向して2年目の清水礼留飛(れるひ/18歳)が第2戦で優勝し、第3戦は2位と大躍進。
さらに、昨季W杯総合13位の竹内も第7戦で優勝して第8戦と9戦は3位と2位。GPランキングも竹内が3位、清水は4位、以下、30歳になった渡瀬雄太が10位で21歳の小林潤志郎は17位と好成績を出したのだ。
前半戦だけ出場して総合22位だった葛西は「自分も調子はあまり良くないのに3位になったりした。あれで日本の選手の技術は元々、世界でも負けてなかったのだと確認できた」と話す。
だが、冬の前には規定が変更になり、0cmから+2cmになった。0cmだとスーツが伸びてしまい、消耗が激しくなるという理由だった。この変更で、風向きが変わった。日本勢が徐々に好結果を残せなくなってきたのだ。
これについて、竹内は「ドイツのコーチも、スーツが0cmの時の方が平等だったと言っているが、サマーGPで日本の調子がよかったのが(ルールの見直しにつながり)よくなかったのかもしれない。普通、秋にルールが変わることはないですから。少し抑えておけばよかったかもしれない」と苦笑する。
こうして迎えた昨年11月末のW杯開幕戦。「当初、+2cmではそんなに差が出るとは考えていなくて、各国同じようなジャンプスーツだった」と横川ヘッドコーチが言うように、日本は竹内が第1戦9位、第3戦6位。葛西は第2戦10位、第3戦7位。期待の若手の清水もソチでの第4戦と5戦は10位、9位と、エースの伊東がいない中でも上々の滑り出しだった。
だが、ヨーロッパ勢のスーツの開発が次第に熱を帯び、それに伴って日本勢は苦戦し始めた。日本も新しいカッティングのスーツで臨んだものの、年末のジャンプ週間(年末年始8日間にドイツとオーストリアで集中開催されるW杯4連戦)では竹内の17位が最高という状況になったのだ。
新しいスーツは、「空中で尻の部分がポコンと出るようなカッティングにしたら逆にブレーキがかかった」(葛西)という状態だったため、ワックスマンの車に置いたままだった開幕戦の時のスーツを着て飛んだところ、生地が伸びていて空気の通過率も高くなっているにもかかわらず、5mも飛距離が伸びた。葛西も、「それで『技術の差ではない、スーツの差なんだ』とわかりました」と言う。
「ヨーロッパ勢は本拠地が近いから、一度使ってダメだったらすぐに新しいタイプを持ってきて試すなどしているけど、日本は遠くてそれができない。今はノルウェー勢のスーツがいいですね。オーストリアも一時はすごくて今は少し落ちているけど、いろいろなパターンを試して調子の波があるだけだと思います」(葛西)
日本の場合、横川ヘッドコーチがミシンを持参して、選手のジャンプ内容と結果を見ながら試行錯誤で修正を加えている状況だという。ジャンプ週間後、ポーランドのザコパネで竹内が7位になったが、それもスーツのカッティングを以前のものに戻した成果だった。
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