【レスリング】吉田不在の全日本選手権、開幕。ライバル・村田夏南子が語る「五輪への思い」
昨年は吉田に敗れ2位。今年こそ全日本初優勝を狙う村田夏南子 2012年夏、ロンドン五輪でレスリング日本代表が激しい火花を散らしているころ、村田夏南子は島根県で行なわれていた全日本学生の合宿に参加していた。今春、村田は日本大学に進学したばかり。2009年からジュニア五輪で3連覇を達成するなど、同世代では飛び抜けた実力者だ。自分の階級である女子55キロ級が行なわれた日は、眠い目をこすりながら、テレビに釘付けになった。
「もちろん、吉田沙保里さんを応援していました」
村田は吉田に憧れ、柔道からレスリングに転向した。越えなければならない存在ながら、声援を送るのも当然だった。ただ、一抹の不安は隠せなかった。ロサンゼルス五輪金メダリストで、日大レスリング部監督を務める富山(とみやま)英明から、「オリンピックでは何が起こるかわからない」と言い聞かされていたからだ。
吉田が3連覇を達成した時には、本当にうれしかった。しかしながら、その一方で他国の代表選手をチェックすることも忘れなかった。ロンドン五輪では、村田が国際大会で勝っている選手もいた。仕方あるまい。国内におけるシニアの部で、村田のポジションはナンバー2。頂上には『絶対王者』として吉田がデンと構えている。ロンドン後を見据えた上で、テレビを観るしかなかった。
村田は、日本オリンピック委員会(JOC)と各競技団体が連携して次世代の選手を発掘育成するプロジェクト『JOCエリートアカデミー』の出身。地元・愛媛県松山市では、棟田(むねた)武道館で柔道を教えていた祖父・清人の影響を受け、幼稚園のころから柔道着に袖を通し、中学2年の時には全国優勝を果たした。レスリングに転向したのは、柔道のルール改正がキッカケ。得意とする足技を大きく制限されることになってしまったからだ。
上京後は女子レスリングの名門・安倍学院高校に通いながら、アカデミーでもトレーニングに没頭する日々。もともと身体能力が高いうえに、やる気も人一倍あるのだから、伸びないわけがない。2010年12月の全日本選手権では準決勝まで勝ち進み、憧れの吉田との初対決を実現させた。
「すごくうれしかったけど、組んでみたらバラバラにされそうでした(苦笑)」
案の定、第1ピリオドに村田は、テクニカルフォールの一歩手前まで追い込まれた。しかし流れの中で、村田は吉田の猛攻をブリッジでしのぐばかりでなく、一瞬、吉田の身体をマットに抑えかけ、会場を大きくどよめかせた。
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