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高橋大輔がこだわる「どれだけ人の心をつかめるか」 アイスショー『氷艶』で世界観炸裂 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【心をつかむことにこだわる表現】

 高橋は吉備の国の地方豪族の王である温羅(うら)を演じ、ヤマト王権から派遣された増田演じる吉備津彦と対決している。

 もともと穏やかで優しい男だった温羅は、否応なく戦いに巻き込まれるのだが、「平和な地元を守るため」と正義に目覚めると同時に、戦いに取りつかれてしまう。結果、大事なものを失ってしまい、さまよう夜叉になるという役だ。

ショーは「NEWS」増田貴久と高橋のダブル主演 ©氷艶hyoen2025ショーは「NEWS」増田貴久と高橋のダブル主演 ©氷艶hyoen2025この記事に関連する写真を見る

「なぜ、戦うのか?」。その問いかけに対する答えは、どんどん変わっていく。そのたび、高橋は心情を細やかに、大胆に演じていた。歌も、ステップも、演技も、すべてが表現につながった。

 振り返れば現役時代も、高橋はひとつのプログラムを表現するのに、情感まで表現することができた。その技量は、他のスケーターと比べても一線を画していた。実務的には「音を拾い、ステップを踏む」という作業なのだが、曲の世界に入れたからこそ、人の心をとらえられたのだ。

 アイスダンサー時代の高橋に、ひとつ質問を投げたことがあった。

ーー表現者の境地とは? 彼は少し考えてから、こう答えていた。

「自分は競技の勝ち負けに関しても、少しあいまいでもいいかなという割りきりはあります。ずっとこの競技をやって来て、人がジャッジするものではあって。結局のところ、どれだけ心をつかめたか、自分のなかの目標で何が達成できたか、見てもらってどんな評価をもらえたか。ただ、それだけなのかなって。全力で競技を戦うのと、アイスショーで伝えるって、どちらも変わらない。そこは一緒なのかなと思っています」

 彼は現役時代から勝ち負け以上に、スケーターとしてどれだけ心をつかめたかを大事にしていた。それは、今も本質的には変わっていない。今回の公演でも、温羅の苦悩は高橋を通し、現代人の思いと重なりながら、多くの人々の胸に届いたはずだ。

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