高橋大輔×増田貴久『氷艶』が問う「大義」と「悪」 役に重なった高橋のスケート人生 (3ページ目)
【温羅に見た現役時代からの生きざま】
舞台のたび、高橋は歌や演技力の評価が高まっている。今回の公演でも、存分に挑戦、進化を披露。氷の上で激しく滑り回りしながら、台詞を合わせ、表情や声の調子を変える演技は簡単ではない。そして相手に颯爽と斬りかかっていく殺陣(たて)はスピード感に溢れていたし、歌に合わせて優雅に滑る姿は、それだけでショータイムと言えるだろう。
「戦うなんてごめんだ!」
そう叫ぶ高橋の姿は、必死に生きることで愛された温羅ともどこか重なった。それは現役時代の高橋を筆者が描いてきたからだろうか。
高橋は優しく穏やかな人柄だが、フィギュアスケーターとしての生きざまは苛烈だった。前十字靭帯断裂のような試練も受けながら、葛藤のなかでも競技を続けた。一度は引退するも復帰し、再び脚光を浴び、今度はアイスダンスに転向し、新たな伝説を残している。
その真っ直ぐさが胸を打つのだ。
「共演の増田貴久さんをはじめ、すばらしいスケーターや俳優の皆さんとともに、この壮大な物語をつくり上げられることが何よりうれしいです。SUGIZOさんの音楽がつむぎ出す世界に乗せて、観客の皆さんとともに『悪』や『大義』という普遍的なテーマについて、深く考え感じる時間を共有したいと思います。この舞台で、新たな自分の一面をお見せできるよう、最終日まで全力で挑みます。どうぞご期待ください!」
初日公演を終えたあと、高橋の言葉である。
音楽はSUGIZO(LUNA SEA/X JAPAN)の生演奏で大迫力だ ©氷艶hyoen2025この記事に関連する写真を見る
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
フォトギャラリーを見る
3 / 3