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宇野昌磨が本田真凜とのアイスダンスで見せた進化 高橋大輔と重なる気配とその先 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【高橋大輔と重なる気配】

「高橋大輔さんには憧れていたし、尊敬するスケーター。同じくらいの存在になりたいという思いが強いです。でも今は、自分自身がそう思われる存在になれるようにしたいですね」

 今年3月、筆者がインタビューした時、宇野は言葉を選びながら答えていた。

「表現者として、自分がまだまだだってわかっているからこそ、今回の『Ice Brave』に向けては意気込んでいます。大輔さんが、(『氷艶』や『滑走屋』などで)なぜあれだけ魅力的なスケートができるのか......それを自分なりに言語化して、大輔さんに限らず、いろんなものを取り入れたい。その先にある自分の表現というのを見つけたいと思います」

ショーでは現役時代の思い入れの強いプログラムを披露したショーでは現役時代の思い入れの強いプログラムを披露したこの記事に関連する写真を見る

 彼らしく敬意を失わず、"表現"への矜持も見せていた。アイスダンスに取り組んだのは、自然な流れだったのだろう。憧れの存在に近づくというよりも、表現を突き詰めるなか、アイスダンスにはその可能性があったということか。

 高橋はシングルから転向し、村元哉中とカップルを組んで3年目で全日本選手権優勝、世界選手権では11位とトップテンに迫った。アイスダンスを広め、フィギュアスケート全体の人気を底上げした。それは快挙だったと言える。しかし何より彼自身、アイスダンスを経ることでスケーターとしてグレードアップしていたのだ。

 アイスダンスは靴からして違う。ジャンプで大逆転は望めず、減点競技で、完璧性が求められる。たとえばツイズルひとつをとっても、回転が合わないだけで美しさを失う。そこで回転のカウントに夢中になっていると、トランジションが汚くなる。すべてをこなせても、「ボディラインの傾斜」、「つま先を合わせる」、「ホールドの支点」でズレが出ると、ぼんやりとした演技となる。

 しかも、男性はリフトのパワーが必要で、ステップでは乳酸がたまって持久力を試され、肉体改造から始まるほどだ。

「シングルの癖も抜けきらないんです」。新競技に挑み始めた当時の高橋は、現実と対峙していた。

「今までシングルで、ひとりでやってきたので。自分の思いだけでなく、ふたりでやっていく、という気持ちの面でまず違う。人と気持ちをすり合わせるというか、そこから変えていく必要があると思います。お互いをよく知ることが最初の段階で」

 アイスダンスは技術、体力、メンタル、すべてが異なる。多くのアイスダンサーがツイズルで苦労するのは象徴的かもしれない。シングルのツイズルはあまり関係ないという。人と動きを合わせようとすることで、回転数や傾斜の角度で混乱し、メンタルコントロールも含めてズレが出る。だからこそ、時間が大事だと言われるのだが......。

 宇野はたった数カ月で、格段に進化を遂げている。初公演でみごとなツイズルだった。驚くべきことだが、アイスダンサーになったのだ。

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