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【フィギュア】イリア・マリニン「7本の4回転こそ僕のアイデンティティになるもの」 世界選手権2連覇で感じる「責任」とは?

  • 野口美恵●取材・文 text by Noguchi Yoshie

世界王者 イリア・マリニン インタビュー前編(全2回)

 フリースケーティングでは7本すべてのジャンプで4回転を跳ぶ「7クワッド」に挑戦し、世界選手権連覇を達成したイリア・マリニン(アメリカ/20歳)。出場した全大会で優勝し、無敵のシーズンを送った彼が、母国開催となった世界選手権について振り返った。

3月下旬にボストンで開催された世界選手権で連覇を達成し、取材に応じるイリア・マリニン photo by Noguchi Yoshie3月下旬にボストンで開催された世界選手権で連覇を達成し、取材に応じるイリア・マリニン photo by Noguchi Yoshieこの記事に関連する写真を見る

【緊張してマッスルメモリーだけで跳んだ】

ーー優勝おめでとうございます。圧巻の演技での世界選手権2連覇となりました。

イリア・マリニン(以下同) 母国のファンの前で優勝できたことは、本当に大きな刺激でした。今シーズンは、ボストンの世界選手権がもっとも重要だと考え、この瞬間のためにすべての計画を立ててきたので、それがうまくいったことがうれしいです。

ーーまずはショートプログラムの『Running』のことを聞かせてください。アメリカのラッパーNFの曲で、超満員となった会場のTDガーデンはものすごい盛り上がりでした。

 ショートは、観客が乗りやすい曲を準備していたので、盛り上がることは予想していました。でも、ステップシークエンスの途中から手拍子が鳴りやまなくて、そこまでの歓声は今までなかったものなので、すごく興奮しました。演技中盤からは、とてもいい気分で夢のようでした。

ーー母国開催での世界選手権は、どんな思いで挑みましたか?

 じつは、ショートはいつもより緊張したんです。ショートはまずミスが出ないプログラムなので、普段は緊張しないのですが。今までと違う感覚で、どうしてあんなに緊張したのかわかりませんでした。ただ音楽が流れ始めてからは、もう無我夢中で、曲の流れに乗っていくような感じで動きました。緊張であまりものごとが考えられていなくて、ジャンプはほとんどマッスルメモリー(筋肉の記憶)だけで跳んでいました。それでも成功したことで、今回は自分のマッスルメモリーに自信を持つきっかけになったと思います。

ーー緊張したとはいえ、ショートは自己ベスト更新のすばらしい演技でした。

 演技後、得点が出る前から、これまでで最高の出来だと実感していました。(1月の)全米選手権のあと、今までとは違ったトレーニング方法を試してきたのですが、それが演技に出たと思います。ジャンプやコレオシークエンスのような派手な練習ではなく、本当に小さな調整をする練習です。自分にとっては今まであまり意味がないと思っていたような、細かいエッジの正確性を見直してきたのです。

ーーステップシークエンスでの手拍子は本当にすごかったですね。

 手拍子に背中を押されながら、「やっぱりこの曲は、僕にピッタリだな」と感じました。NFは大好きなアーティストで、彼の歌詞や、彼がインタビューなどで語っている哲学を聞いて、それが僕の力になっているんです。苦しみから解放されるようなパワーを感じる歌詞です。今回も、歌詞を口ずさみながら演じました。そうすることで、演じているキャラクターになりきることができるんです。

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著者プロフィール

  •  野口美惠

    野口美惠 (のぐち・よしえ)

    元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌、北京オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。2011年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝。

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