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小説『アイスリンクの導き』第7話 「再デビュー戦」 (3ページ目)

「6分間練習の時間だよ」

 鈴木四郎コーチが呼びに来てくれた。振付師としての活動が本業だけに、関係性は限られていたが、凌太との分業でちょうどよかった。

「外国人コーチも含め、考え直したら?」

 四郎コーチにはそう勧められた。ロシアにいるニナ・ナフカは18歳の時に3カ月だがみっちり鍛えられて、波多野を通じて信頼もしていた、しかし、今はロシアスポーツ界全体に絶望し、活動を停止しているという。何より、自分にとってのコーチは生涯、波多野コーチだけだ。

 翔平は、6分間練習のリンクに入った。戻ってきた、という感慨に震えるのかと思っていたが、砂に水がしみ込むように自然だった。居るべき場所とはそういうものか。周回を重ねながら、氷の感触を確かめた。何度も滑ったことのあるリンクで、要領はつかんでいた。膝も痛みは消えているし、今日はおとなしくしていてくれそうだ。

 ステップでエッジを倒すことで、次のポジション取りでも優位性を保つ。氷を押すべきところでは、固定を意識。少年時代に教わった基礎ばかりだ。

「ショーちゃん、ガンバ!!」

 スタンドからの声援が聞こえる。競技会でしか体験できない光景だ。

 まずは試合経験が大事で、スコアや順位は考えないことにしていた。リンクに立つだけで十分。そう括っておかないと、心身にストレスをかける。アクセルはトリプルでなくダブルで、3回転フリップのセカンドは3回転トーループではなく、2回転と構成は落とし、その分、不安もなかった。しっかりと着氷してGOEを稼ぎ、ステップ、スピンのレベルを取れたら及第点だ。

 異変が起こる気配はないはずだった。

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