本田真凜「昔の自分で、今の自分にプレッシャーをかけないように」。8度目の全日本で初のSP落ちに明かした心中 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【同じことでもいいほうに捉えられるようになった】

 しかしどの分野のアスリートも、早熟の天才は積み上げが難しい。反復ができず、鍛錬が甘くなる。一方で、その儚さが強烈な引力も放つ。

 筆者は、フィギュアスケートを題材にした小説『氷上のフェニックス』(角川文庫)で、本田をモチーフに準主役の「福山凌太」という人物キャラクターをつくっている。

 福山は天才的スケーターで、類い稀なセンスで著しい飛躍を見せる一方、周りに祭り上げられる。本人はスケートが好きだったが、時間の流れのなかで自分を失う。やがてスケートが人生そのものだったことに気づくのだが......。

 本田の人生はそのキャラクターとは無関係だが、彼女はフィクションのインスピレーションを与えるほどの人間的魅力があった。

 なぜ本田の記事が多く出るのか。理由はたくさんあるはずだが、単純にひとりの天才の行方を知りたいのだろう。いつか復活するかもしれない、その日を待ちわびてしまうのだ。

「2018年くらいはすごく苦しくて。その時も(全日本は)大阪で、辛い思い出しかないですが。その時に比べると、楽しくできているんじゃないかと思います」

 今回の全日本、SPが終わったあと、本田はそう心中を明かしている。

「今シーズンは『全日本に出る』って目標にしてきて、達成することができました。今回ジャンプは悔しかったですが、他は丁寧に滑れて、プラスもたくさんついてよかったなって。『ステップでレベル4をとる』ってやってきてとることができました。小さな目標をつくって、達成することができたのはうれしくて。昔の自分で、今の自分にプレッシャーをかけないように」

 本田はそう言って少し微笑んだ。

「自分の人生、よくないと思うとやっぱりよくないし。同じことでもいいほうに捉えられるように。それが少し前からできるようになったかなって」

 かつての天才少女は、ピースを一つひとつ拾い上げる。たとえパズルが完成されなくても。小さなピースに彼女の人生が詰まっているのだ。

【著者プロフィール】
小宮良之 こみや・よしゆき
スポーツライター。1972年、横浜生まれ。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

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