宇野昌磨「現状維持では置いていかれる」。新シーズンのテーマ「自分」に込めた思いとは
新プログラムで観客を魅了
7月1日、横浜。開幕したアイスショー「ドリーム・オン・アイス」、世界王者の宇野昌磨(24歳、トヨタ自動車)は大トリで颯爽と現れた。黒の上下のセットアップスーツ、白いワイシャツという衣装。ジャケットの袖は7分までまくり、ボタンはきつく留めていた。
「ドリーム・オン・アイス」に出演した宇野昌磨この記事に関連する写真を見る ショートプログラム(SP)予定のブルースギター曲『Gravity(グラビティー)』(重力)の律動に合わせ、はだけた胸元でペンダントがゆらりと揺れる。ゆったりとした曲調に躍動感が重なると、不思議と重力から解放されるような緩急があった。終盤、得意とするクリムキンイーグルを入れると、観客席では温度が上昇したかのような錯覚を受けた。
最後、スピンを決めた宇野の白い頬は、ほのかに赤みを帯びていた。
「自分」
2022−2023シーズンのテーマを、宇野はそう定めている。その「自分」はエゴイズムや虚栄心を指すものではない。誰かを見下ろす、誰かと競争する、という欲とは相反する、とことん自分と向き合う作業だろう。ひたすら自分を超えることに、スケーターとしての価値を見出すーー。
「どんどん成長していかないと」
孤高の王者の流儀である。
宇野は今年2月の北京五輪では団体、個人と2つのメダルを獲得し、3月の世界選手権では金メダルを獲得している。覇者として挑むシーズンになるわけだが、そうした気負いは見えない。もしくは、祭り上げられるのを嫌っている印象すら見える。結果主義の重圧はすさまじく、「楽しむ」という原点をかき乱す。失敗を恐れたら、彼が求める挑戦も、成長もおぼつかないのだ。
だからこそ、彼は「自分」という太い軸をつくっているのだろう。
アメリカのイリア・マリニンが「ドリーム・オン・アイス」の練習中にクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)を跳んだことが話題になって、その「進化」について記者から質問を受けた時も、答えは淡々としたものだった。
「初めて生で見て、すごく安定していて、来シーズンの試合で取り入れられる完成度だなと思いました。跳んだ、だけではなく、成功率も高くて。でも、あまりにすごすぎて。自分にとっては刺激となるのは手に届きそうなものなので、思わず客観視してしまったというか、すごいなって」
宇野はそう言って、対抗心は燃やしていない。ただ一方、自らと対峙することは"約束"した。
「どんどん成長していかないと、と思っています。僕も気持ちはまだまだ若いので(笑)。現状維持では置いていかれるはずで。自分が成長する余地があるからこそ、そこを見せられたらなと思います」
あくまで、自分にできることは何か、どんな自分になれるのか、それを突き詰める日々になりそうだ。
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