「悔しいです」浅田真央がバンクーバー五輪で流した涙。それでもキム・ヨナとの戦いは見る者を虜にした (4ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Kyodo News

「アクセルを2回跳んでからは緊張が出てしまいました。なんでかはわからないけれど、体がなにかをすごく感じていたのかもしれない」

 こう語ったように、スピード感に欠けていた。丁寧に演技を続けることだけが、流れを支えているようだった。そして演技後半に入ってすぐの3回転+2回転+2回転の連続ジャンプでは最初の3回転フリップが回転不足になる。続く3回転トーループは踏み切り足のエッジが氷を噛んでしまって跳べず、慌てて1回転にしただけだった。

 フリーの得点は、キム・ヨナの150.06点に対し、浅田は131.72点。すべての演技を完璧に決めて1〜2点の加点を取ったキム・ヨナに比べ、浅田のジャンプの加点はすべて1点以下。技術点では13.62点差をつけられていた。

 思わぬ完敗とパーフェクトな演技ができなかった悔しさ。銀メダルを手にした表彰式後、記者に囲まれて話をしている時でも彼女の両目には、今にもこぼれ出しそうなほどの涙がにじんでいた。

 五輪の印象を聞かれた浅田は、「悔いは残っているし、悔しいけど、すごくいい舞台だと思いました」と言った。銀メダルの印象を問われると、30秒ほど考えたあと、ポツリとひと言、「悔しいです」と漏らした。

 完璧なSPで喜びのなかにあった彼女の五輪は、その2日後、心のなかいっぱいにたまった悔しさとともに終了した。

 その悔しさは浅田にとって、競技を続ける原動力になったのだろう。2014年ソチ五輪は6位だったが、世界選手権は2010年と2014年に優勝して計3勝とした。GPシリーズはファイナルも含めた7大会すべてで勝利するという歴史をつくり、引退する2017年まで日本の女子フィギュアスケートをけん引し続けたのだった。

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