2021.02.22

羽生結弦はプログラムを精緻に組み立てる。最高得点更新へのアプローチ

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

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『羽生結弦は未来を創る〜絶対王者との対話』
第Ⅴ部 プログラムの完成(6)

数々の快挙を達成し、男子フィギュアスケートを牽引する羽生結弦。常に挑戦を続ける強靭な精神力と自らの理想を果敢に追い求める情熱を持つアスリートの進化の歩みを振り返る。世界の好敵手との歴史に残る戦いや王者が切り拓いていく未来を、長年密着取材を続けるベテランジャーナリストが探っていく。

2017年のオータムクラシックで『バラード第1番』を滑る羽生結弦2017年のオータムクラシックで『バラード第1番』を滑る羽生結弦
 2017ー18シーズン、羽生結弦がショートプログラム(SP)で『バラード第1番』を演じるのは3シーズン目だった。とはいえ、4回転ループを冒頭に入れ、基礎点が高くなる後半にはトリプルアクセルと4回転トーループ+3回転トーループを持ってくる難度を高めた構成だった。

 フリーの『SEIMEI』も最初に4回転ループと4回転サルコウを跳んで3回転フリップを入れた後、ステップとスピン、そして後半にサルコウとトーループの4回転3本を連続ジャンプも含めて入れ、トリプルアクセルも連続ジャンプにするという、これまでよりいっそう難しい構成を予定していた。

 そのお披露目となった17年9月のオータムクラシックは、右膝の痛みのため4回転ループを封印したが、SPでは後半に4回転を入れた効果もあって、自身の歴代世界最高得点を更新する112.72点を記録。その秀逸さはピアノ曲と演技との見事なマッチングだった。

 不安を抱えたコンディションでありながら羽生が見せたのは、正確にジャンプを跳び、盛り上げるべきところでスピードを上げる演技だった。流れるような静けさの中でも、メリハリをつけると同時に、ジャンプを完璧に決め、スピンとステップはすべて最高のレベル4だった。

 このSPですごさを感じたのは、一度スピンでスピードを上げて盛り上がる部分を作ってから、再度、静寂に戻って始まる後半最初のトリプルアクセルだ。羽生自身も「今回のプログラムのトリプルアクセルはフワッとした感じで、より音に溶け込むアクセルに仕上がっている」と話していたように、大きく跳び上がり、着氷した直後に「ポン」と小さな音が置かれるシーンは、どこか感動的ですらあった。これが羽生結弦のトリプルアクセルなのだ、と。