「羽生結弦が有利になる」は本当か?フィギュア男子の30秒短縮 (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha photo by JMPA/Noto Sunao

 だが、時間が短くなるから負担が減るかというと、そうは言い切れないという。

「曲の中でストレスなくジャンプを跳べるような選手であれば、当然のようにこの変化に対応できると思いますが、構えてジャンプを跳んでいるような選手にとっては、30秒の演技時間がなくなることはすごく大きな影響を与えるかもしれません。トランジション(技と技のつなぎ)など、プログラム全体を見せる余裕がなくなってしまうからです。ISUが意図するように男子の負荷を減らす目的で演技時間を4分間にしても、4回転ジャンプを跳ぶ男子選手にとっては、実際には負荷がより掛かってくる可能性もあります」(吉岡氏)

 一方、時間短縮で男子スケーターの迫力ある滑りやパワフルな演技という醍醐味が薄れるのではないかという心配もあるが、吉岡氏は「女子やジュニア男子は4分間でファンを魅了するプログラムを見せている」と言う。

「総合的に判断すれば、レベルの高い上手な選手にはさらに有利になり、力の差がつきやすくなると思います。音楽のなかでジャンプを跳べる選手が有利になるという意味では、フィギュアスケートとしては結果として、いい方向にいくのではないでしょうか」(吉岡)

 さらに今回のルール改正では、演技後半のジャンプは基礎点の1.1倍の得点になるというボーナスルールに、何らかの形で制限を加えるという話も急浮上している。その背景には、五輪シーズンに鮮烈なシニアデビューを飾り、女王の座に上り詰めたアリーナ・ザギトワの最強プログラムが影響しているのは想像に難くない。

 もともとこのボーナスルールは、前半に難しいジャンプを全部入れて、後半がスカスカになるようなプログラムになるのを防ぐためのものだった。そこに、得点増を狙って後半にすべてのジャンプを跳ぶ選手が現れた。プログラム全体にバランスよくジャンプが配されるという本来の目的からすれば、これもまた一種の逸脱だろう。

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