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震災から5年。羽生結弦と『天と地のレクエイム』の必然的な出会い (2ページ目)

  • 副田つづ唯●取材・文

――そうして『天と地のレクイエム』のメロディが生まれたと。

「そうです。最初、頭のAメロが出てきて、Aを弾き終えるとBが待っている感覚があり、次々と新たなメロディがばーっと降りてくる、というような感じでした」

――この曲にはどのような思いが込められているのでしょう?

「不思議に思われるかもしれませんが、僕の思いは何もありません。あるとしたら、どうして僕がこういうことをしているんだろう、という感覚ですね。今までの作風から考えても、抑えきれない感情を曲に表すタイプではないし、ましてや鎮魂曲を書くようなタイプでもないんです。何と言うか、思いや自我がまったくない、本意でも不本意でもない、何かに与えられるように湧いてきたメロディを、ピアノという手段を使って発信しているだけであって、皆さんがそれをどう聴くのかな、というのが僕としては一番気になるところです」

■羽生選手の滑りに、強い決意のようなものを感じた

――羽生結弦選手にこの曲が選ばれた経緯は?

「同年9月に開催した東日本大震災災害/紀伊半島豪雨災害復興支援コンサートで初演して、その映像をYouTubeにアップしました。実は、演奏の中盤に大変な思いをしまして。弾きながらすごく負荷を感じて、倒れそうになったんですよ。そのときに、この曲はもう弾くことができない、弾くと自分の命がなくなってしまうと感じたんですが、その鬼気迫る演奏を振付師の宮本賢二さんがYouTubeでご覧になり、羽生選手にご提案いただいたということのようです」

――羽生選手は一聴してすぐ、この曲で滑ることを決めたそうですね。

「直接、羽生選手からもその話をうかがいました。他にも候補はあったらしいんですが、『3・11』を試聴したときに『絶対にこれしかない』と思ったそうです。あるインタビューでは『滑り始めると自分の体の中に何かが降りてくるような感覚になった』と語っているんですが、それは僕が得た感覚とすごく似ているんですよ。僕がピアノに向かわされたのと同じように、彼も何かしらの存在にこの曲を選ばされた、演じさせられたのかもしれない、と思いました」

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