震災から5年。羽生結弦と『天と地のレクエイム』の必然的な出会い
羽生結弦が演じる、2015-2016シーズンのエキシビション・プログラム『天と地のレクイエム』。使用されている楽曲(原題『3・11』)は、ヒーリング・ピアニスト/作曲家の松尾泰伸が2011年3月11日に起きた東日本大震災の鎮魂曲として完成させたものだ。披露されるたびに、この作品は広まり、静かな感動を呼んでいる。なぜこの曲だったのか。この曲で何を表現しているのか。いまだ多くを知られていない『天と地のレクイエム』について、作曲者本人に話を聞き、その言葉から、選手本人の思いにも触れてみたい。
今季のエキシビションとアイスショーで『天と地のレクイエム』を滑る羽生結弦 photo by Noto Sunao■何かに突き動かされるような感覚でピアノに向かった
――『天と地のレクイエム』(原題『3・11』)の作曲に着手したきっかけを教えてください。
「2011年3月11日の出来事は決して忘れることができません。僕の住まいは大阪ですが、遠い地で起きていることとはいえ、その大惨事をテレビで目の当たりにして、すさまじい恐怖と危機感を覚えました。その映像を見た直後、なぜかピアノに向かったんです。
僕はここ十数年、家のピアノで作曲することはほぼなかったんですよ。というのも、和歌山県出身ということで、高野山が世界遺産に登録された2004年に熊野本宮大社で奉納演奏を行なったんですが、それをきっかけに大自然の中で演奏する機会を多くいただくようになりました。そんな活動を続けていくうちに、作曲するというよりも、何かに与えられるように曲が入ってくるようになったんです。まったく知らない、聴いたこともない曲を大自然の中で弾いている自分がいるようになって。
ところが、『3・11』が生まれたときは、それと同じようなインスピレーションが初めて家の中で起こったんです。あのときは不思議と、自分の意思とは別に何かに突き動かされるような感覚でピアノに向かいました」
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