羽生結弦がエキシビションの演技に込めた「故郷への思い」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao/JMPA

 2月22日のソチ五輪フィギュアスケートエキシビション。男子シングル優勝者として最後から2番目の登場となった羽生結弦は、川井郁子演奏の『ホワイト・レジェンド(チャイコフスキー作曲「白鳥の湖」より)』で舞った。

22日のエキシビションで華麗な演技を披露した羽生結弦22日のエキシビションで華麗な演技を披露した羽生結弦「これまでの僕は感情を出そうとすると、自分の内側にすごく入っていってしまうタイプだったんです。今日はそれをあまり中に入れないで、外に出そうと思って集中して、それができたと思います......」

 羽生がこう話すように、その演技からはじんわりと熱い思いが伝わってくるようだった。 この『白鳥の湖』は2011年に東日本大震災後初のアイスショーで使った曲だ。復興へのメッセージを込めて、被災した自分の過ごした町が立ち上がる姿を想像して演じたという。

「これをソチでやろうかどうか悩んでいたけど、金メダルを獲ったのでここでやりたいと思いました」

 羽生は優勝後の記者会見で、外国メディアからも被災地への思いについて質問されていた。その時彼は「無力感を感じることもあった」と心情を吐露した。フィギュアスケートでどんなに結果を出しても、それが直接復興の手助けになっている訳ではない。自分は何もやっていないのと同じではないかと。だからこそ、金メダルを獲った今を、復興のために何かを始める「スタート地点にしたい」と話した。

「僕がこの曲をやることで何かが変わるとは思わないけど、僕自身は今回の金メダルからスタートしたいと思うので......。これが間接的にでも復興のきっかけになったり、被災地のことを思い出すきっかけになってくれたらいいと思っています」

 羽生はソチ五輪金メダリストとしての自分の第一歩を、この『ホワイト・レジェンド』で踏み出した。

 ソチ五輪で日本チーム唯一の金メダルを獲得した羽生について、橋本聖子団長は「彼は五輪の本当の怖さを実感したと話していたし、悔しい金メダルだったと話していた。この若さでそれを感じることができるのは素晴らしいこと。次は本当の意味での金メダルを獲りたいと強く思えたことは、本物の財産だと思います」と、19歳の金メダリストのさらなる飛躍に期待を寄せていた。

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