ベテラン・髙橋大輔を突き動かす若きライバルたちの進化 (2ページ目)

  • 折山淑美●文・取材 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 そんな状況で迎えた8日のフリー。最初に会場に衝撃を与えたのは、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)だった。羽生とともにブライアン・オーサーコーチの指導を受けているフェルナンデスは、4回転サルコウ+トリプルトーループの連続ジャンプ、4回転トーループと4回転サルコウの単独ジャンプと、合計3本の4回転を見事に決め、ノーミスで178・43点をマーク。合計258・62点という高得点を出した。

 しかし、練習仲間であるフェルナンデスに刺激を受けたのか、4番滑走の羽生がその得点を上回る。4回転トーループを決めた後の4回転サルコウは2回転になり、トリプルフリップでもロングエッジを取られたが、スタミナ切れを起こしたNHK杯とは違い、最後まで力を残して滑りきったのだ。

「NHK杯(のフリー)は4回転サルコウを踏ん張って降りたから、肉体的にはかなり消耗していたと思う。今回一番の目標にしたのは、自信をつけることだった」と話す羽生は、昨季の世界選手権で出したフリーのベストを3点以上上回る177・12点を出し、合計でも自己ベストの264・29点をマークしてトップに立った。

 続くチャンは冒頭の4回転トーループで転倒。そこから小さなミスはありながらも重厚な滑りを見せたが、最後にダブルアクセルに続けてトーループを跳んだ連続ジャンプが回数オーバーと判定されて0点になり、羽生を越えることができなかった。

 そして最終滑走の髙橋も、最初の4回転トーループで転倒。それでも、次の4回転トーループに成功すると、とっさに3回転トーループを付けて連続ジャンプにしたが、この3回転は回転不足。続くトリプルアクセルも着氷を乱し、中盤のトリプルアクセルでも手を付くミス。この時点で、羽生の優勝の可能性が大きくなってきた。

 だが、最後までスピードを落さずに滑りきった髙橋の得点は、結局177・11点。合計で羽生を5・11点抑え、日本男子GPファイナル初優勝の勲章を意地でもぎ取ったのだ。

「日本男子初のファイナル優勝は嬉しいですけど、フリーは3位だったので、正直勝ったという気持ちになれないですね。ジャッジが評価してくれたのは嬉しいですけど、課題が残ったという気持ちの方が強いです」

 こう話す髙橋は、技術要素点ではフリー1位のフェルナンデスに5・71点、羽生にも1・74点差をつけられていた。だが芸術要素点はトランジッションの8・82点以外の4項目はすべて9点以上をマーク。総合表現力の差で羽生を抑えることができた。

 髙橋が今回のSPでもフリーでも口にしたのは、「優勝しようとか、何位になろうというのは考えず、自分の演技だけをしようと思っている」という言葉だった。そう発言した理由を聞くと、彼はこう答えた。

「自分が勝つためには周りを知ったうえで、それに左右されないで自分自身を保つことだと思う。中国杯では余計なことを考えて焦っていた部分もあって、いい結果につながらなかったので。まずは自分の演技をしなければ、勝つにも勝てないと思うようになったんです」

 大会に出て周りの選手の練習や演技をじっくり見るのは、「自分より優れているところを確認したいから」、そしてライバルと自分の演技を比較し、自分には「何が足りないかを明確に知るため」とも言う。

「例をあげればパトリックの芸術要素点のすごさや、終盤になればなるほど(滑る)スピードが上がっていくスタミナのすごさ。それに羽生君のきれいに降りる4回転も参考になりますね。自分に足りないものを知り、それを自分に合った手法で追求するのも、他の人に負けない速度で進化するために必要だと思う」と、髙橋は冷静に自己分析する。

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