初の世界選手権で3位。羽生結弦が描く「金メダルよりも大きな夢」

  • 青嶋ひろの●取材・文 text by Aoshima Hirono
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 そんな苦しくも幸福な「成長期」が、羽生結弦にはなくなってしまった。すでに、押しも押されもせぬ世界のトップスケーターの仲間入り。いろいろなプレッシャーも増えてくる。

 確かに彼は早熟だろう。彼の成績をパトリック・チャンと比べると、現在21歳のチャンの世界選手権初メダルは羽生結弦より1年遅い18歳(09年)のときの銀。

 シーズン前、羽生結弦は自らの成績を予想して、「パトリックも17歳で世界選手権に初出場して、9位。じゃあそれを越えるのが目標!」などと笑って話していた。そして、今回銅メダルを獲得した後は、「もちろんいい結果を、いつもイメージトレーニングしてきました。でも、正直、世界選手権の表彰台のイメージはしてこなかった(笑)。ほんとうにびっくりです」と、明かした。狙ってもいなかった場所に、もう手が届いてしまった驚き。

 それでも、羽生結弦ならば慢心することなく前進してくれるだろう。今回のフリーを見ても、彼にはすべての経験を決して無駄にしない力がある。学習能力、積み上げる力、成長する力は本物。チャンや髙橋に比べればまだまだ荒いと言われるスケーティングも、この類まれなる「学びのセンス」で、どんどんレベルアップしていくはずだ。

 そして彼自身がこの先狙っていく目標も、ただのチャンピオンではないという。

「もちろん世界チャンピオンをめざしたいです。でも、1回優勝するだけじゃなく、勝ち続けたい。そして他の選手を完全に突き放せるような選手になりたいんです。だって僕は、ずっとプルシェンコを尊敬してきたんですから」

 そう、彼の目標は、世界選手権優勝3回、欧州選手権優勝7回、オリンピック3大会連続メダル獲得の「勝ち続けたチャンピオン」、エフゲニー・プルシェンコだ。実はプルシェンコも羽生のことを認めていて、羽生はシーズンオフのアイスショーなどでプルシェンコに会うたびに、「俺を越えろ」「俺に勝て」と言われているそうだ。

 プルシェンコが目標ならば、17歳で世界選手権のメダリストになっても、早すぎることはない。「勝ち続けるチャンピオン」に向けて、この銅メダルがスタート地点。驚いている時間も、夢見心地に浸っている時間も、それほど長くはなさそうだ。

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