日本ボクシング世界王者列伝:八重樫東 14度の世界戦を戦い抜き「3階級制覇」を成し遂げた傷だらけの勲章 (3ページ目)
【着実に積み重ねているトレーナーとしての実績】
ゴンサレスに敗れてからわずか3カ月後、体重を2kg削りライトフライ級に転じた。WBC王座決定戦に臨み、3階級制覇に挑んだ。しかし、ペドロ・ゲバラ(メキシコ)の左ボディブローに屈する。キャンバスに這いつくばった八重樫を見て、ボクサーの終焉を感じる人も少なくなかった。
だが、八重樫はあきらめなかった。2015年冬、IBF王者ハビエル・メンドサ(メキシコ)に挑戦、大差判定勝ちし、日本人として3人目の世界3階級制覇を成し遂げた(現在は7人)。このメンドサ戦、中間距離での丁寧なやりとりと、一気の集中打とがうまく織り交ぜられ、32歳にしてのベストファイトと評する人もいる。
3度目の防衛戦で王座を失ったが、それでもあきらめず、2019年、14度目の世界タイトルマッチ、IBFフライ級王座に挑戦。この試合に敗れたのを最後に、ついに現役生活からの卒業を決めた。傷だらけのボクサー生活だったが、最後の血の一滴まで尽くして戦い抜いた姿は、多くの共感を呼んだ。
引退後は、大橋ジムでトレーナーを務める。早くもK-1世界チャンピオンから転向してきた武居由樹をIBF世界バンタム級王者に育て上げた。サウスポーの武居がキック時代から得意にしてきた、相手に飛びついて打ち込む右フックをそのまま活かすなど、個性重視の育成法で実績を積み重ねている。
3年ほど前だったか。トレーナー・八重樫を取材したことがある。彼自身のボクシングキャリアにはほとんど触れなかったが、肉体改造論、選手育成理論など、聞きたいことが次から次に出てきて、八重樫はその一つひとつ、よどみなく、丁寧に、適切な例題を加えながら答えてくれた。気がつけば、取材時間は約3時間。今のところ、武居に関する15分ぶんだけしか原稿にしていない。大変申し訳ないことをしていると思っている。
●Profile
やえがし・あきら/1983年2月25日生まれ、岩手県北上市出身。黒沢尻工業高校でボクシングを始め、インターハイ・モスキート級(45kg以下級)で優勝。拓殖大学時代には国体ライトフライ級で優勝を飾る。2005年、大橋ジムからプロ転向。7戦目の世界初挑戦は敗れたが、2011年にWBAミニマム級、2013年にWBCフライ級、2015年にIBFライトフライ級とタイトルを獲得し、3階級制覇を達成した。強敵との対戦もいっさい厭うことなく、井岡一翔、ローマン・ゴンサレスら歴史的強豪との対決にも果敢に挑んだ。2019年、14度目の世界戦に敗れた試合を最後に引退。現在は大橋ジム・トレーナー。身長162cmのボクサーファイター型。35戦28勝(16KO)7敗。
著者プロフィール
宮崎正博 (みやざき・まさひろ)
20歳代にボクシングの取材を開始。1984年にベースボールマガジン社に入社、ボクシング・マガジン編集部に配属された。その後、フリーに転身し、野球など多数のスポーツを取材、CSボクシング番組の解説もつとめる。2005年にボクシング・マガジンに復帰し、編集長を経て、再びフリーランスに。現在は郷里の山口県に在住。
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