【ボクシング】佐々木尽は「倒され役」から再び「倒し役」に トレーナーと一緒に夢を叶えるため、次戦は東京ドームに立つ (2ページ目)
試合後、衝撃のKO動画はSNSで瞬く間に拡散され、思いがけず、世界中に広まった。
8カ月前は意識を飛ばされ、年間最高KO賞の"倒され役"だったボクサーは、"倒し役"としてその名を広めた。
試合評価は賛否両論。SNS上では「尽の試合は面白い」「最高!」「華のあるボクサー」という称賛もあれば、「残念」「成長していない」「一発頼みでは、世界は無理」という冷ややかな意見も。
試合後の囲み取材――。
「本当は、もっと練習してきた左ジャブを使うつもりでした。でも、相手は、予想とは違って、最初から出てきた。自分は、下がるボクシングはしたくない。なので、今日に限っては、あれが正解と思っています」
八王子中屋ジムで初めて取材した時、「自分のボクシングをひと言で表現するとすれば」と尋ねた。
「The Movie」
即答だった。
「勝っても負けても、映画のような試合を見せたい」
再起戦は、期待通りの「The Movie」。
ただし、時には退屈な演技もできなければ、世界は厳しい。それも現実。
尽も理解している。それでも――。
「練習通りにはいかなかった。ただ、それも想定内でした」
控室、笑顔の尽を見守るトレーナーの廣隆は答えた。
相手が打ち合いを望めば、一歩も引かずに真っ向勝負。
確かにそれは、以前と同じ。だが、ジャブを突いて距離を測り、両腕のガードだけでなく、頭を振ったり、スウェーで避けて攻撃を返した。被弾もわずかにずらし、芯は外した。8カ月前とは違う姿。そして、最後の左フック一閃。"らしさ"も失っていなかった。わずかな変化だが、廣隆にとっては大きな収穫だった。
「中屋、トレーナーとは耐えるもんだ。耐えることが、トレーナーの仕事だ」
廣隆が30歳でトレーナーを始めたばかりの頃、尊敬し、慕っていた先輩トレーナー、横田忠から言われた言葉。当時、師匠から言われた言葉の重み。70歳を過ぎた今、あらためて噛み締めていた。
成長を待つ。急がない。そして、信じる。
それが、廣隆の流儀。
ただし、信じることはできても、待てる時間は無限ではない。
誰よりも実感し、背負っていたのは他ならぬ、廣隆自身だった。
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