中谷潤人がアメリカのマイナス面にショック 元ヘビー級王者の境遇に痛感する「ボクシングに打ち込める場所」があることの幸せ (3ページ目)
【ボクシングと「丁寧に向き合わなければ」】
イースト・タスクルム・ストリートには、映画『ロッキー』のなかで、主人公が亀と生活していたアパートがある。ロッキーを演じ、脚本も手掛けたシルベスタ・スタローンは、生活に困窮する前座ファイターの苦悩を描く折、現実の重みを盛り込んだのだ。
同アパートは1920年に作られており、床面積およそ70平方メートル、3部屋のベッドルームに、バスルームが1室。物件の値段を調べると、7万5300ドルから9万5517ドルとのことだ。同地区の3ベットルーム賃貸物件の平均家賃は、1791ドル。
NeighborhoodScout社のデータによれば、ひとり当たりの所得を比較した際、タスクルム・ストリートの住民以上に貧しい生活をしている人は、全米中で3.7パーセントしかいない。また、近隣で貧困状態にある子供の割合は61.7%に及ぶ。このエリアに住む52.5パーセントがプエルトリコ系、13.5パーセントがドミニカ系となっている。
2人のチャンプは、ロッキー・バルボアが早朝のフィラデルフィアをロードワークする前、壁に手をつきながらアキレス腱を伸ばしたシーンをマネて写真を撮った。ふと、中谷はその場でシャドウボクシングをした。食事に行っても、買い物に出掛けても、中谷は自然とパンチが出る。その様子を見たティムが囁いた。
『ロッキー』のワンシーンをマネる中谷(上)とティムこの記事に関連する写真を見る
「俺にもあんな時期があった。若い頃は、体が勝手に動いたもんだよ。今、チャンプは27歳だよな」
私がうなずくと、ティムはロッキー・バルボアが生卵を飲んでいたアパートの扉に視線をやりながら言った。
「27歳の時、俺はベルトを失い、途方に暮れていた。26歳でWBCタイトルを獲得したが、初防衛戦にはまったく集中できなかった。ろくに飯も食えないような状況に追い込まれた......。それでも、リングで闘う以外にできることはなかった。
チャンプは、集中してボクシングに向かえている。とにかく、彼の望む形で闘い続けなければいけない。これから最盛期を迎え、さらに大きくなっていく男なんだから」
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