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中谷潤人がアメリカのマイナス面にショック 元ヘビー級王者の境遇に痛感する「ボクシングに打ち込める場所」があることの幸せ (2ページ目)

  • 林壮一●取材・文・撮影 text & photo by Soichi Hayashi Sr.

【中谷潤人が住んでいた地域は「背筋が凍る」】

 私はティムに訊ねた。「あなたの故郷と、潤人選手が15歳で生活し始めたロスアンジェルスのサウスセントラルなら、どちらが危険だと思いますか?」と。

 元世界ヘビー級王者は即答した。

「そりゃあ、サウスセントラルだ。間違いない。アメリカ東部の人間にだって、あそこに関するニュースは伝わってくる。黒人の怒りが爆発して暴動が起き、それが1日や2日じゃ治まらない。オレンジジュースを買おうとした黒人の少女が、店の女主人に撃ち殺される。背筋が凍るよ。

 高校生くらいの頃は、『俺の住むフィリーのゲットーって、なんてひどい場所なんだ!』って毎日のように感じていた。でも、サウスセントラルほどじゃないね」

 ティムは一瞬、後部座席の中谷を振り返り、言葉を続けた。

「15歳でサウスセントラルに移り住んで、ゴールに向かって突っ走ってきたんだな。心から尊敬する。俺にはとてもマネできない生き方だ。並の度胸じゃない。だから今のポジションに到達したのさ。これから、もっともっとビッグになるだろう。モハメド・アリやマイク・タイソンのレベルまで行ってほしいよ。

 それに、ジュントは謙虚なところが魅力だ。世界チャンプって、偉そうに肩で風を切って歩くようなヤツが多いだろう。でも、彼はそうじゃない。純粋なボクシング愛と、人柄のよさを感じる。ファイティングスタイルにも出ているな」

 WBC/IBFバンタム級チャンピオンは、目の前の情景に唖然としながらも、こんな感想を漏らした。

「サウスセントラルでも、ドラッグ所持で逮捕されている人を見たことがありますが、これほど大勢の人が一カ所に固まっている場面には出くわしていません。アメリカの一面なんだとショックを覚えると同時に、哀しい気持ちになります。この国は、貧富の差が激しいですね。ただ、ああなるのも本人の選択ですから、第三者にはどうしようもないことだと思います。

 ティムの育ったエリアに関しては、また違った種類の怖さを感じますね。それに、サウスセントラルのほうが危ないという彼の発言には、ただただ、恐ろしいなと。住んでいたとはいえ、そこまでの感覚はなかったので......」

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